アルジェリアのたび

淡々とふるまう(アルジェ)

<渋滞するアルジェ市街(1枚目)/海を望むカスバの坂道(2枚目)

首都アルジェはアフリカの都市というより地中海沿岸の都市である。人種や文化などヨーロッパ的要素が強く、そこにアラブとアフリカの味付けを加えたという印象だ。海岸沿いに銀行や官庁などの近代的な建物が整然と並び、裏通りには近代ヨーロッパ建築が連なる市街地があり、その後背にモスクや古い住居が傾斜地に密集するカスバがある。そこまでが持参した地図の都市拡大図に表され、散策可能な範囲でもあった。
その地図にはホテルが3つしかなく、うち2つは最高級ホテルだった。アルジェ初日は残りの中級ホテル(HOTEL SAFIR)に宿泊した。安くはないが、古い格式と安心感があるホテルで満足していた。しかし、コンスタンティーヌに向かうチェックアウト時、ニ百円程度のつり銭を払え払わないという些細な揉め事があった。後から考えると私にも落ち度があったような気がするが、その時は完全にホテル側が問題だと思っていた。私のしつこい抗議にこんな小銭でこれ以上やりあうのはばかばかしいと思ったのか、フロントの男がつり銭をカウンターの上に投げ出し、つぶやいた。
「くそったれ日本人め。フランス語も話せないくせに」
そのように聞こえたので彼を睨みつけると、何、こいつフランス語がわかったのかという慌てた顔をする。二度とここの敷居をまたぐものか、私はそう誓いホテルを出た。

コンスタンティーヌからアルジェに戻ってきてホテルを探す。観光案内所も市内ガイドマップもない。警官や街の人から教えられた市街地やカスバにあるホテルは、外観やフロントの様子だけで自分には無理だと思わせる粗末なところばかりだった。ここならばというホテルで部屋を見せてもらうと、ベッドの下にゴミやゴキブリの死骸が堆積し、想像をはるかに超えた汚れや悪臭に襲われる。アルジェリア人は不潔耐性が異常に高い。
ホテルが決まらないうちに夜がふけてきた。決して安全ではないとされるこの街で、これ以上裏通りを歩き回るのは危険だ。喧嘩した40ドルの中級ホテルは、まず私が謝るという対応も考えられたが、フロントの男を許すことができず近づきたくもなかった。かといって私の基準を大きくはずれる百数十ドルのホテルには緊急事態でもない限り泊まれない。しかし、他に選択肢があるのだろうか。私は街灯の周りをうろうろしながら考えた。
解けない問題に悩み、最初に選択肢から外したホテルに向かって歩き始めた。なぜ、このホテルなのか理由がないまま決断している。
ロビーに入るとフロントに例の男がいた。相手から怒り出したらどう対処しようかと思いながら、私は自分の気持ちを抑えてカウンターに向かう。
「今晩泊まれますか」
「ええ、もちろんですとも。先日と同じ部屋でよろしいですか」

謝りもしなければ許しもしない、争いはなかったかのように淡々とふるまう。文化や価値観の異なる人たちと接するためには、これが必要だったのだ。

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