[イスラエル]出国(強制ディレイドバゲージ)

<エルサレム 岩のドーム>

<エルサレム旧市街ムスリム地区のお嬢さん>

エルサレム旧市街近くから駅までの移動のため、発車しそうなバスに駆け寄った時、警備のためバス車内にいた軍服姿の男女2人にライフルを向けられ静止を命じられた。自爆テロ防止のためバスに走って近づいてはいけないようだが、なんとも物騒な国だ。銃口を向けていたのは20歳前後にみえる若者。経験不足から判断を誤り撃ってしまう、なんてことはないのだろうか。

エルサレムからテルアビブに列車で移動して、着いた駅から5分ぐらい歩くと偶然にもトラベルエージェンシーをみつけた。エルサレムのエージェンシーではアテネまで300ドルぐらいと言われていて決めかねていたが、ここではイスタンブールまで175ドルだという。今日の便でエラル(EL AL)だがいいかと確認された。聞いたことのない航空会社だが安ければ何でもいい。じゃあ今すぐ空港に向かって、3時間前到着が必須だから、と送り出され、テルアビブはほとんど何も見ずに出国することにした。

空港でEL ALのカウンターを探すと、それは元国営のイスラエル航空だということがわかった。搭乗手続き前の長い列に並んでいると、途中に係官がいて『どこへ行く、1人か、荷物はこれだけか』と尋ねてきた。そして、この3つの質問だけで私は列から外され特別扱いを受けることになる。怪しい人間を出国させずに引き留めておくということはしないだろうから、長い列に並ぶ代わりにまた延々と質問を受けるのだろうぐらいに思っていた。
バッグの中身をチェックされるコーナーに連れて行かれた。コの字型のカウンターで荷物のX線チェックで引っかかった人たちが不満そうな顔をしながら係官のチェックを受けている。まあ、このぐらいのことは想定していたことだ。早めに済ませてもらおうと思い、指示される前にバッグを開けようとするとバッグに触るなと制止される。
そして、次々と立場が上の人間が現れ、4人目の男が同じ質問を繰り返した後でこう続けた。
『なぜ1人なのだ。なぜグループじゃないのだ』
『・・・なぜって、1人が好きだから』
『なぜ鞄がそんなに小さいんだ。なぜ、その大きさで3ヶ月旅行できるんだ』
『・・・そんな(愚かな)質問には答えようがない』
今回は堪えようと思っていいたが、いいかげんいらついてきた。すると、そこへ新たな2人のセキュリティが現れ、私のバッグを台車に乗せ、彼らに前後挟まれた状態で別室へ連れていかれる。バッグが小さすぎたのがいけなかったのだろうか。いや、そんなことでも質問に答える態度が悪かったからでもなく、始めから予定されていたこととしか考えられない。入国時に面倒を起こした者が二度と来る気が起きないよう(としか思えない)執拗な嫌がらせをこのあと受けることになる。

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裏手にあるセキュリティーロックのかかったドアを開けると、ひとけのない寒々とした空間が広がっていた。細いベッドほどのアルミの台が数本横たわり、棺桶かリンチ台が並んでいるような不気味さだ。バッグは奥の部屋に運ばれ、私と監視の男2人だけで部屋で待っていると、2人の若い男が入ってきた。この国の男たちは、徴兵制かハゲやすい頭のせいかわからないが、坊主頭が多く不気味さを助長させる。その5分刈りの男たちが部屋に入るなり薄手のビニール袋を手にはめだした。私は靴を脱がされ、大きなフィッティングルームのごとき部屋に入れられて、カーテンが閉められた。さすがに恐怖を感じた。拷問を受けることはないだろうが裸にされるのだろうか。あの手袋は尻の穴を検査するものではないのか。
2人の男に気持ち悪いほど体を触りまくられ服も脱がされたが、パンツ一丁になったところで終了した。
次にバッグが置かれた奥のスペースに移動させられる。5人の男に取り囲まれバッグのチャックを開ける。その後、私をバッグから引き離し、4人の男が可能な限り中身を細かく分解しながら、手で良く触り、金属探知器で確認し、液体や電化製品は奥の部屋に運んでいく。別の人間が検査するのだろうか。
他に搭乗客はいないと思っていたが、所持品チェックエリアにはうなだれて涙を流す褐色の婦人が隅のベンチに座っていて、女性係官がなだめていた。なぜこんな目に合わされるのかと思うと、私も泣きたくなる。

彼らはアフリカの係官と違って現金には興味がない。私がいろいろなところに分散させた現金を見つけると、その度にベンチで待たされている私の所に運んでくる。最後にはバッグの奥からでてきたと言って見覚えのない硬貨を持ってきた。何年も前に旅行したブラジルの硬貨じゃないか。よく見つけたな。
30分ほどの時間をかけ所持品チェックは終了したようだ。しかし、ノートパソコンと充電器、シャンプー、コンタクトレンズ保存液、そして中身を全て抜いた布製財布は別便で送るという。ロストバゲージ扱い(ディレイドバゲージ)で翌日の夕方着くと言う。
『なぜ機内預入荷物でなく別便で送る必要があるんだ』
『我々は説明できません。セキュリティの手続き上そうなっているのです』
リーダー格の男が答えた。プーチン大統領の顔から神経質さを取り除いた柔和な顔つきをしている。さすがユダヤ人、役者が揃っている。
『だから、その手続きにどういう意味があるんだ。あんたらが説明できないなら説明できるやつを連れて来い』
私のような人間が二度と入国する気が起きないよう、意地悪をしているとしか考えられない。怒り心頭に発していた。
『理由はない。しかし手続き上のルールには従ってもらう。それだけだ』
『ノー!!あんたらのルールには従わない!』
断固拒否した。私はイスタンブールに滞在の予定がない。長くて1日、できれば今晩中に夜行で隣国に移動しようと考えていた。そのことを伝えても彼らは聞く耳を持たない。翌日の夕方にはホテルに送られるから全く問題ない。そう言うだけだ。
別便用の箱が持ち込まれ、私の拒否を無視して箱に積み込まれる。ああ、こんな事が分かっていれば多少高くてもアテネ行きにすれば良かった。アテネなら2、3日滞在しても問題なかったのだ。あるいは陸路での国境越えに変更しようか。イスタンブール便チケットのキャンセルを考えていたが、そうすれば最低この国にもう1泊はする必要があるだろう。イスラエルはもう懲り懲りだ。
完全にふてくされ、拒否をしながらも彼らの指示にゆっくりと従い、スタッフの1人と共にチェックインカウンターに向かった。そこで、航空会社の女性スタッフに尋ねる。
『明日のイスタンブール行きは何時に着きますか』
『すみません。明日はフライトがありません』
『何だと。どういうことだ』
私は、同行してきた若いセキュリティに食ってかかった。
『大丈夫です。接続便がありますので、ロストバゲッジは問題なく明日の夕方着きます。必ず24時間以内に受け取れますのでご安心下さい』
女性スタッフが愛想の良い笑みと共に答える。そうそう問題ないですよ。5分刈りのセキュリティもにこにこする。
英語で会話している時は頭の回転がすこぶるにぶくなる。私は納得してしまいイミグレーションへ進んだが、機内に入ってからふと思った。こんな短い距離で接続便なんてある訳ないじゃないか。

結局、ロストバゲジは次のフライトである翌々日の深夜着便に乗せられ、PCのため空港からホテルにも送られず(イスタンブール空港のローカルルールによる)、私はイスタンブール4日目の午前中に空港に出向き、やっとロストバゲージ扱いとなったパソコンを受け取ることができた。

自分たちで作ったルールを守ることに専念して相手の痛みを理解しようとしない。優秀だとされるユダヤ人が誕生して幾千年、多くの民族から憎しみを買い続ける理由はそこにもあるのではないだろうか。

<後日記>

必ず24時間以内でPCは到着すると何人ものセキュリティ及びチェックインカウンターの航空会社スタッフが約束したにも関わらず、3日後受け取りとなったことに強く抗議するため、ロストバッゲージ遅延(ディレイドバゲージ)による費用請求を行うこととした。ロストバゲージが発生すると1日何ドルか負担したりするので航空会社に要求すべきとガイドブックに記載されているので、イスタンブールでの宿泊費用の一部あるいは全部をイスラエル航空は支払うものと考えていた。
クレームは空港のロストバゲージカウンターが窓口となって受け付けるものだと思っていたが、それは誤りで航空会社に対して直接行う必要があるという。ノートパソコンを受け取った日は日曜日でオフィスは休み。イスタンブール滞在をこれ以上延ばしたくなかったので、別の都市でイスラエル航空とコンタクトを取ることにした。(何らかの請求を行うのであれば、ロストバゲージが発覚した時点で航空会社とコンタクトを取る必要があるとのこと)
アテネではマネージャー不在を理由に断られ、ローマではテルアビブに直接電話して交渉しろ、と取り合ってもらえない。それぞれの支店のスタッフと何とか言葉は通じているようだが、全くコミュニケーションできていないことに苛立ちあきらめかけた。しかし、東京にも航空会社の支店があることを知り、帰国後クレームすることとした。

日本はいいところだ。小さなオフィスのマネージャーは私のクレームに対して航空会社(実際は関連会社)の社員として深く謝罪した。日本では当然のことだが、帰国直後のため予想していなかった行為に感動した。そして、彼は詳しく説明してくれた。
・ロストバゲージの到着が遅れるようであれば、同じ場所で待っているのではなく、次々と移動先(今回のケースではソフィアかアテネのホテルや空港など)を航空会社に連絡して転送してもらうことが可能。どれだけ転送されても乗客に確実に荷物を渡すところまでが航空会社の責任範囲。
・荷物が損傷なく乗客に渡した時点で航空会社の責務は果たされている。規定上は遅延に対して補償の義務はない。
・イスラエル航空では、以前、ロストバゲージとなった乗客に対して1日15ドル支払っていたが、現在は中止している。申し出た乗客に歯ブラシなどのお泊まりセットを渡しているだけ。今はどこの航空会社でも現金を支払うことはないのでは。
・何らかクレームする際、ロストバッゲージ発生時点から21日以内に航空会社に対して意志表示することが必要だとIATAの規定で定められている。
・ロストバゲージを24時間以内に受け取れると偽りの説明を行ったことに対してクレームするのであれば、いつ何時にどこで誰がという情報が最低限必要となる。

ということを説明した上で、書面でクレーム内容を提示すれば本社に取り次ぐと言われた。しかし、補償額は最大で45ドル(1日15ドルの3日分)で、支払いに応じる可能性はゼロに近いということを理解して、これ以上無駄な労力をかけることを断念した。

代わりにこのマネージャーに質問しながらいろいろと話を伺い以下のような内容が印象に残った。
・イスラエル人はホテルも予約せず一人で観光する個人旅行者というものを未だ理解できていない。
・イスラエルのセキュリティには米国の友人である日本に好意的な人が多い反面、連合赤軍の印象が抜けず日本人に対して敵意的な態度を取る年配者が少なくない。
・ツアーコンダクターから転身したこのマネージャーは、イスラム圏入国スタンプのあるパスポートを所有しているため、イスラエルに出張の際、イスラエル航空の社員証を提示してもセキュリティによるしつこい尋問に悩まされた。パスポートの内容だけでセキュリティのルールに沿った対応をされることが多いので、情勢によってはイスラム圏渡航歴のある旅行者は入国拒否される。

私の場合、2006年6月ガザ侵攻以降の緊迫した時期に訪れていれば入国できなかった可能性が高いとのこと。
今後、イスラエルを旅行される方は、できるだけきれいなパスポートで(そのパスポートでイスラム圏に入国する場合はノースタンプの主張が必要)、可能な限りツアーで入国することをお勧めします。

(後日記は2006年7月11日)

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