パキスタンのたび

山輝き水豊かな里(フンザ)

<カリマバードからウルタル山を仰ぐ>

パキスタン北部に桃源郷と呼ばれるところがある。そこフンザは長寿の里であり、旅行者憧れの地でもある。いつか訪れてみたいが、1週間程度の旅行では無理だと思っていた。フンザ中心のカリマバードまでイスラマバードからバスで2日要し、途中、土砂崩れで何日も足止めされることも少なくないからだ。
しかし、イスラマバードからフンザの玄関となるギルギットまで空路があることを知り、今回の旅程に組み入れることにした。ただし、その路線は有視界飛行で8,000m級の山々を越えるため、欠航が多く何日も待つ覚悟が必要だという。

前夜遅くイスラマバードに入り、早朝ホテルを発ち空港に向かう。特に問題もなくプロペラ機はギルギットに向けて飛び立った。飛ぶことが少なくキャンセル待ちの客で満席になると言われていたが機内の席には余裕がある。リスクを認識させるため仕方ないが、ガイドブックは大げさに書きすぎる嫌いがある。(翌日、ガイドブックの正しさを知る)

ヒマラヤ山脈のピーク間近を小さな機体がよたよたと越えていく。機内の汚れた窓から望む宝石のようにきらめく白い峰々、この景観を堪能できただけでもパキスタンに来た甲斐があったと感じた。

ギルギット空港に到着するやいなやバスで3時間のフンザ中心カリマバードへ移動。標高2,500mの桃源郷は急峻な山に囲まれる谷あいの村だ。機内から観賞した万年雪をいただく鋭鋒の山々がフンザ周辺に見られると思っていたがそうでもなかった。これぞフンザという景色はどこだろう。滞在時間の短い私は景観を求めて歩き回り、谷へ下る道の途中で山の合間からウルタル山(7,388m)が姿を見せる地点で写真を撮った。デジカメのディスプレイで確認して写真としてはイマイチだなあと思っていると、隣の集落から歩いてきた老人が唐突に話しはじめる。
「どうだ、この山の美しさは。すばらしいだろう。世界一だぞ。見ろ、あの水の流れを。あんなに激しく流れている。見ろ、この緑を。我々に恵みを与えてくれるこの緑を」
芝居がかった声で、顔を皺だらけにしながら話した男はそのまま立ち去った。
得体の知れぬ長老のおかげで、私のフンザを見る目が変わった。ここにはフォトジェニックな景色がないかもしれないが、すばらしい自然に囲まれている。山輝き水豊かなことが、緑を育み、人々にどれだけ幸福を与えていることだろう。

辺境の地にたどり着いておきながら、日帰りでこの村を去る旅程を組んだ自分がうらめしく感じた。

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