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[ガイアナ]ジョージタウン(3)

空港での待ち時間に外に出ると、ビルのすぐ近くに庶民向けの店が数軒並ぶ長閑な通りがあった。そこでジュースを飲んでいた私を興味深くみつめていた子と仲良くなる。写真では大人びているが、6、7歳にしかみえないかわいらしい子だった。

怖そうな街で嫌な人もいるが良い人もいて、最後にかわいい子供と接することができたので良い印象でガイアナを出国できると思っていた、が甘くはなかった。

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出国時の税関チェックを特別扱いでねちねちとやられた。相手はアフリカ系黒人男性。何を話しているのかさっぱりわからない。

何がきっかけだったのかわからないが、私だけ個室に連れていかれ、鞄の中身を細かくチェックする。そして、隠すように分散してあった現金を手に取って集めていく。その男は現金にしか関心がない。アフリカ人官吏によく見られるタイプだ。そして日本円をみつけて喜ぶ。ゼロの数が多いから大金だと思ったのだろう。1万円札の価値は80ドルしかないと答えても信用しない。そして、これは問題だ、お前はこのままでは出国できない。税関に出向いて申告しないといけない。お前はこの飛行機に乗ることができない、と脅してくる。まるくつぶれた鼻でべちゃべちゃとわかりにくい英語を話していたが、こんな小男の脅しに乗せられる旅行者などいるのだろうか。
何を言っているんだ、私は入国時にドルの価値で所持金を申告している。こんな少額の現金を所持していることで何が問題だというのだ。ちゃんと説明しろ。今までおとなしく応じていた私が反撃に転じた。
しかし、彼の英語が私に分からないように私の英語は彼に半分も通じていないようだ。彼は問題だ問題だと言いながら、ときどき声のトーンを落としてべちゃべちゃと話す。全く理解できない。こちらからワイロの話しを持ち出すよう仕向けていると想像されるが、私に全く通じていない。彼はイライラしながらも別の人間を呼ぶから待っていろ、と何度も電話をかける。
私がトイレに行ったり、彼が電話している隙に少しずつ前進したりして、我々は搭乗機のゲート前まで来ていた。既に搭乗が開始されている。丸鼻の黒人は、お前は乗れないぞと脅し続けていたが、ついに私以外の搭乗客が全て機内に入ってしまった。ロビーには携帯電話で話をする小男と私の2人だけになり、航空会社の男性職員がいぶかしげにみつめている。私乗れないみたいなんで行っちゃって下さいという訳にはいかないだろう。航空会社のスタッフがどうしたんだ、なぜ待たせているんだと電話を切った小男に詰め寄ってきた。今、税関から別の人間が来るから待っていろと言ってた男も、これ以上出発を遅らせられないと航空会社のスタッフに言われ、渋々、私に行っていいと手で合図した。

だいたい予想できた結末だった。アフリカ系官吏には野犬がまぎれているので、吠えられたことに腹を立ててはいけない。噛まれなかったことを良しとしないと。

悪徳運転手(ペシャワール)

<アフガニスタンに向かう(1枚目)/カイバル峠の落石渋滞(2枚目)

ギルギットからペシャワールまでの徹夜の移動後、私はホテルで朝食を済ませ部屋にチェックインして街に出た。下痢が治まり体調は良く、車内で熟睡できたわけではないがなぜか眠くもない。ペシャワールで最も訪れたい場所は、アフガニスタン紛争時にテレビで有名になったカイバル峠(ハイバル峠)。しかし、外国人がハイバル峠に行くためには前日までに許可を取り、護衛とガイドをつけた車を旅行会社で用意してもらうことが必要とのこと。明日の昼ペシャワールを発つ私には困難かと思っていた。
インフォメーションセンターで問合せようと中心街を歩いていると、すぐに男に声をかけられた。彼はタクシーの運転手だというのでカイバル峠に行けるか尋ねると、少し考えて答えた。
「千ルピー(約2千円)でどうだ」
えっ、今すぐ行けるの?彼は何とかする、と言う。近くに停めてあった彼の車は新しく、ガイドブックにある2千5百ルピーという正規の料金と比べて安い。私は舞い上がり、他に確認もせずにその男の車に乗った。途中で物静かなガイドを同乗させた後、警察関連のオフィスで許可を取り、そこで制服姿の若い護衛警官を助手席に乗せ、私を含めて4人が乗った車はハイバル峠に向かった。
草木が少なく傾斜のきつい山肌に無理やり造られたような道なのだが、国境を越えるトラックの通行が多い。落石のため、ところどころで長い渋滞が発生する。
パキスタン側の眺めのよい地点で車を停め、運転手がダッシュボードから拳銃を取り出した。本物なの?もちろんさ。パーン、パーン、パーン、男は山の峰に向けて拳銃を放った。

身構えていても心臓が止まりそうな音に衝撃を受けた。助手席に座る護衛警官は常にライフル銃を抱えている。国境付近のこの無法地帯ではゲリラより彼らの方が危険ではないか。

峠からアフガニスタンを遠望したあと周辺の観光を済ませ、我々の車は峠道を下って街に近づいていた。今までいかつい顔ながら笑みをたたえていた運転手の顔つきが変わっていた。
「今日の料金はこれだけになる。払ってくれ」
停車中に書いた彼のメモ用紙には、護衛警官に2千ルピー、他の費用で運転手の取り分が8千ルピー、合わせて1万ルピー(約2万円)の請求額になっている。
「冗談じゃない。千ルピーの約束だ。1万ルピーも払えるか」
「その請求書をよく見ろ。千ルピーは峠までの片道の料金だ。峠での観光代、帰りの車代、ガイド代はみんな別だ。これだけの人間を乗せて、これだけの距離走って千ルピーってこたぁないだろう」
運転手、護衛警官、ガイドの3人がグルになっているのは明白だった。特に若造の護衛警官は悪徳運転手の言いなりだ。どうみても危険と思われるペシャワールで素性のわからぬ男の車に乗った自分に落ち度がある。しかし、銃口を向けて脅されているわけではない。まだ、強気でいこう。請求書の細かい内容を確認せず、「こんなの無効だ」とメモ用紙を運転席に投げつけた。憤怒するドライバーの目がバックミラーに映る。やばい、どこかに連れ込まれるか。しばらく沈黙のまま車が走る。
「わかった。特別に安くしてやるから俺に4千ルピー払え」
急に半額になった。大丈夫、こいつはそれほどのワルではない。
「千ルピーしか払わないよ。警察のオフィスであんたと護衛警官に支払う」
警察のオフィスに行っても運転手の仲間がでてきて金を巻き上げられるのではないかという恐れがあったが、身の危険にさらされることはないだろう。

警察のオフィスに着くと運転手は居合わせたスタッフたちにまるで私が悪者かのようにわめきちらす。制服を着た下っ端の男たちは運転手の言い分を一方的に聞き、5千ルピーを彼に払えといい、こちらが冗談じゃないというと、では4千ルピーをと埒があかない。お前ではだめだと言うと別の人間が現れ同じことを言う。だめだ、もっと偉いやつを呼んで来い。
眉間に皺が寄った年配者が奥から現れた。見るからに風格があり、彼の前では運転手が静かにしている。その偉そうな人物は私の言い分にもじっと耳を傾けた。
「カイバル峠まで片道で行くやつがあるか。最初に千ルピーと言ったならそれは往復代だ」
高位を示す紋章を付けた男は、そう言って運転手を怒鳴りつけた。やった、ついにまともな人が現れた。裁きが下される前に運転手が執念で食らいついたため、経費分300ルピーの追加が認められ、私は従った。

制服姿の若い男が近くでずっともじもじしていた。私は彼にいくら払うべきか上官に尋ねた。
「100ルピー(約2百円)でいい」
護衛警官は不満そうに私の100ルピーを受け取った。

夜のカラコルムハイウェイ(ギルギット)

<カリマバードからアルティット・フォートを望む(1枚目)/フンザの陽気な子(2枚目)

イスラマバードに戻るため翌朝8時に空港に向かうと、何か様子がおかしい。まだイスラマバードから飛行機が着いていないのに人々が外に出てくる。私がカウンターでチケットを差し出した時、それはスタッフから告げられた。
「本日のフライトは天候不順のためキャンセルです。明日の便に振り替えて下さい。」
好天ではないが天気は悪くなかった。問題なく飛ぶものと思っていた私は頭が真っ白になった。一昨日、昨日と休む間もなく動き、調子よく旅を進め、今日はイスラマバード市内と周辺の遺跡観光をしてペシャワールに夜入るという過密プランで気を張りつめていたのだが。
空港からホテルに戻り休ませてもらうと、緊張の糸が切れ、疲れがまわってきたのか下痢を伴った腹痛に襲われる。部屋で横になり考える。明日の朝もう一度フライトにかけるか、今日から少しずつバスで移動するか。しかし、今日の天気で飛ばないのであれば、よほどの晴天でなければ無理なのだろう。
少しずつ雲が厚くなると共に気が重く、腹痛もひどくなる。この調子では今日中にバスに乗るのは無理と思われる。そうすると車のチャーターしかない。明日もフライトがなかった場合、車をチャーターして戻ることで考えがまとまった。
夕方になり、車の値段と時間を確認するためにふらふらと街に出て、旅行代理店で尋ねる。
「イスラマバードまでとばせば12時間ぐらいかな。」
おお、直行バス20時間と比べてはるかに早い。それではペシャワールまでダイレクトに行くこともできるのでは。ペシャワールまでは14時間だという。料金はペシャワールまでの飛行機代プラス100ドル。そこまで金を出すなら夜行で走り、当初の予定を取り戻すか。気合が入り、俄然、元気になる。
「すぐペシャワールに向けて出られる?じゃあ6時。今晩6時出発。」
急遽思い立った強行策に挑むこととした。

薄暮のカラコルムハイウェイをカローラが飛ばす。ディルバールという名の運転手は、軽快に右へ左へとハンドルを切っていた。峡谷沿いを走る道は、陽が落ちてもヘッドライトで浮かび上がる景色が幻想的だ。
時々休憩するドライブインは夜通し走るバスやトラックで溢れ、真夜中にもかかわらず不気味な活気に満ちている。お茶や食事の他に仮眠をとる施設もあり、疲労がみえてきた細身のディルバールは、もうここで泊まってから行こうとか、せめてひと眠りだけさせてくれと哀願する。弱音を吐く運転手に私が活を入れると、彼は窪んだ眼を見開き、薄暗いライトで照らしだされたワインディングロードを疾走する。

朝7時すぎ、予定より早くペシャワールの街に入った。ディルバールくん、やるじゃないか。朝陽に照らされた彼の頬がげっそりとこけて見えた。まあ、気のせいだろう。