国別アーカイブ:メキシコ ( 12件の日記 、ページ 1/2 )

[メキシコ]パレンケ

<十字架の神殿>

<頭蓋骨の神殿(撮影ポイント)

これまでのメキシコの遺跡は、やれレプリカのようだとか、崩れすぎて全くイメージが沸かないなどと文句を言ってきたが、ついにほぼ理想的な遺跡に出会えた。
パレンケは遺跡の雰囲気を醸し出しながら、建築物の姿が残り、当時のイメージを想起することができる。更に多くの遺跡に登ることができるのも気に入った。また、周辺の奥深い緑は見事で、虫がほとんどいないのもすばらしい。

ただ、暑い。蒸し暑い。
今まで高地の観光地が続き、雨模様のため肌寒かった。それが、いきなり急に暑くなったのでたまらない。
私は気温が40度を超えない限り水なしで歩き回れるのだが、あまりの暑さで気を失いそうになり、水を買いに一度遺跡の外に出なければならなかった。

カンクン周辺のチチェンイツァやウシュマルを超えるできの良さは、遺跡の観光地としてはメキシコで一番かも。(以上は学術的な価値を無視した観光客の視点による個人的感想です)

[メキシコ]サンクリストバル

<中心部付近のレストランよりカラフルな通りを望む>

サン・クリストバル・デ・ラス・カサス(San Cristóbal de las Casas)はオアハカよりも更に私好みの街。
山に囲まれている。少数民族が衣装を纏い土産売りをしている。こじんまりとした田舎町だが、しゃれたカフェや美しい街並みがある。

<サント・ドミンゴ寺院を望む公園撮影ポイント

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<カルメン寺院の門>

しかし、バックパッカーが多いのだ。今までメキシコ国内では、メキシコシティに泊まったホテルでみかけたぐらいなのだが、この街に着き、バスターミナルで十数人のバックパッカーがいるなと思ったら街中にいるわいるわうじゃうじゃと。別に私に危害が加えられるわけではないので、オアハカの教職員組合員ぐらいに思っておけば良いのだが、バックパッカーたちは気に入った小さな町を占有して自分たちの色に染めていく力がある。

今のところ彼らのおかげで私好みの街になっているかもしれないが、素朴さと洗練さの絶妙なバランスが維持されるよう、バックパッカーがこれ以上増えないことを望む。

<たびメモ>

オアハカからパレンケ(区間ルート)に向かおうと考えていたが、夜行の特等バスがあったのでオアハカからサンクリストバル(区間ルート)にした。しかし、ADO GLというブランドのバスはPrimera Plusの1等バスと同程度のグレードでそれほどラグジャリーなものではなかった。

サンクリストバルからパレンケまでの道(区間距離)は距離がない割りに時間がかかる。5時間以上の大半がくねくね曲がる山道。たまに道路が直線になると小さな集落が現れ、バンプ(減速用段差)が無数にありバスが大きく上下動する。私はめったに乗り物酔いしないのだが、出発して30分後に気持ち悪くなり、それからずっと吐き気が治まらず辛いバス旅となった。

[メキシコ]オアハカ

<サントドミンゴ教会前広場からマセドニオ・アルカラ通りを望む>

オアハカは花と緑に溢れた美しい街。
石畳の歩行者道路にカラフルな街並み、ヨーロッパ風のカフェもあればメキシコ料理の庶民の店もある。街中にはプエブラなみに壮麗なサントドミンゴ教会と隣に十分立派な博物館と植物園、郊外には遺跡がいくつかあって観光資源が豊富。
理想的な観光都市ではないだろうか。

<マセドニオ・アルカラ通り>

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<カテドラル前でストライキをしている人々>

しかし、まだストライキが街の中心であるカテドラル(教会)とソカロ(広場)で行なわれているのだ。現地の人たちはクレージーなやつらがストライキだと称して何日もここに泊り込んでいると言っていたが、2006年5月に始まった教職員組合のストライキかそれを支援する団体による抗議集会が続いているようだ。ビニールテントやアウトドア用のテントが並べられ、夜が更けるにつれて公園が人で溢れてきて異様な雰囲気になる。
身だしなみが整った人たちはベンチや花壇の縁石に腰掛けてぼうっとしているか話し込んでいるだけ。危険はなさそうだが、写真を撮っていると鋭い視線を感じる。
現在はそれだけだが、このストライキが暴動に発展する恐れがあるとして、日本の外務省からも危険情報が発令され観光客を遠ざけてしまっている。これさえなければ、2、3日ゆっくりしたい街だ。

<モンテアルバンの遺跡航空写真

オアハカ近郊の遺跡で世界遺産のモンテアルバン<写真上>を訪れた。マヤ文明よりも前に栄えていたサポテコ人の祭礼センターだということだが、遺跡らしい素朴さを残しながら、かつての面影がイメージできる。しかし、どうも個性やインパクトがない。もうちょっとオリジナリティが出るよう修復しておいてもいいんじゃないかな。これではちょっと、印象が薄すぎ。

<たびメモ>

緩やかな山の頂上部にあるモンテアルバンまではツーリスト向けのバスでしか行けないが、途中の山腹には集落があり、狭い山道をローカルバスが何台も行き来している。最近でかけたスリランカのアダムスピークへ向かう道やフィリピンのバナウェ周辺の山道を思い出させる、景色の良いなかなかのアプローチだ。

オアハカのバスターミナルから中心ソカロまでは2km弱。メキシコのバスターミナルは数km以上郊外にあることが多く、バスターミナルから市内へ向かうローカルバスに乗ると、ほとんどの街で自分のイメージした場所で降りられず苦労していた。しかし、オアハカはローカルバスに乗らずに歩いて市内に入ることができ楽だった。

[メキシコ]プエブラ

<チョルーラのトラチウアルテペトル遺跡(ピラミッドが埋まっている丘の上に建つレメディオス教会)

メキシコシティの街や博物館のすばらしさを見て、地方の街を観光する気がなくなったが、ここの2つの教会(カテドラル、サントドミンゴ教会)は見事、見る価値がある。

サントドミンゴ教会には壁面から天井へと金箔の浮き彫りに覆われた礼拝堂があり、カテドラルはその大きさと美しさからスペインの有名な教会を連想させる。

バスで30分のチョルーラの遺跡は素朴だ。発掘されたままであまり手がかけられていないように見受けられる。味があって悪くない。しかし、(テオティワカンを巨大なレプリカと言っておいて何だが)これだと元がどうであったのか全くイメージできないのだが。ミニチュアか想像図でも使って説明してくれないと。(帰り際に街中に博物館があることを教えられたが時間がなく行っていない)

<たびメモ>

プエブラ、チョルーラ間はローカルバスが頻繁に走っている。全て舗装道路なのだが、日本でダート道路を走っているよりも揺れる。30分ぐらいかかり途中不安になったが、景色を見ていてここしかないというバス停でドンピシャで降りられた。運ちゃんにここに着いたら教えてと言っておけば良いだけだが、メキシコ人は親切すぎるので、混んでいるバスでは運転手や乗客にできるだけ迷惑かけないように自力での移動に努めている。

[メキシコ]メキシコシティ

<メトロポリタン・カテドラル内部>

国立人類学博物館には半日ではとても消化しきれないほどのメキシコ古代文明のお宝が陳列されている。見るべき展示物の多さではエジプトのカイロに次ぐのではないだろうか。(自国の文化財のみを陳列する博物館では)

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博物館の1階は考古学で2階が民族学、文明あるいは民族別に部屋を分けて、巨大な遺跡は2階からも見られるようにとか、かなり工夫して配列されている。ここに国内最高の発掘品が全て集められているのかと思ったら、テンプロ・マヨール博物館にも地方のお宝が人類学博物館に対抗するように(規模はぐっと落ちるが)美しく展示されていた。

今まで見てきた地方の博物館(一昨年訪れているユカタン半島も含めて)は一体何だったんだろう。メキシコシティに取り上げられなかった残りものを並べていただけではないだろうか。地方と首都で博物館格差が大きすぎるので、少しは地方の博物館に戻した方がいいのでは。

メキシコシティの乗り物はスリや恐喝が頻出して大変危険だという。外務省のサイトではバスも地下鉄も流しのタクシーにも、少なくとも1人では絶対乗るなと忠告している。ガイドブックには人類学博物館に向かうバスで1ヶ月に日本人12人の被害が報告されたこともあると書かれている。(現金だけの被害であれば届けても保険が下りないため)わざわざ報告する人は少ないはずなのでとんでもない数だ。

どうしたものかと思案したがこれといった解決策が出てこないので、気合を入れて地下鉄に乗ることにした。高価な腕時計をしていると狙われるので外す(テオティワカンで日焼けしてしまい腕時計の痕が残ってかえって不自然)とか、荷物はひとつにまとめて抱えるとか、ホームに警官がいる場合はその近くの入り口から乗るとかした上で、車内の全員をチェックして怪しい人物がいればすぐ降りようと考えていた。なにせ被害例を読むと、地下鉄車内で男2、3人が近寄って押さえ込み財布などを奪うのだが周りの乗客は助けてくれない、ということなので、人相の悪い男たちに注意を払うしかないのだ。

すると、地下鉄車内の乗客たちはどいつもこいつも目つきが悪いことに気づく。私があちこちに視線を向けると、何人とも目が合ってしまう。みんなが互いに車内の人たちを観察し合っているようだ。特に若い男性は、ほとんどが犯罪者になり得る顔つきをしているので、一緒に乗り込んだ男たちはグルか、あの男とこっちの男が目で合図しあったのではないか、とか最大限に警戒し続けていた。
結局、市内の移動に全て地下鉄を使い、何ら危険な目に合っていないが、気を張り詰めすぎてくたくたである。

<ソカロ付近の朝の街角>

メキシコの都会の朝はチョー気持ちいい。街中の車道から歩道までとことん清掃されて磨き上げられているかのようだ。また、メキシコシティなど高地にある都市はひんやりとして空気が澄みきっている。
静かな朝の街を散歩するとあちこちの道端で軽食や飲み物を供する店がある。人だかりができている店で適当に指差して注文すると安くてはずれがない。実に幸せな気分になれる。

<たびメモ>

メキシコのホテルはノガレスを除いて、たとえ安宿でも、これでもかというほどに磨きあげられているので、セキュリティ面だけをチェックすれば良いかもしれない。しかし、事前にチェックしようがないが、ホテル内の騒音が問題で、安宿ほど夜更けまで騒ぐ客が多い傾向にある。

[メキシコ]テオティワカン

<太陽のピラミッド撮影ポイント

太陽のピラミッドはでかい。ギザのピラミッドほどではないにしても、高さ65mはイメージしていたものよりかなり大きい。下から見上げると頂上付近の観光客が蟻ほど(写真では点)にしか見えないほどだ。
しかし、テオティワカンの遺跡は全般に味がない。深みがないと言うべきか。

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太陽のピラミッドの頂上まで登れるのはすばらしいことだが、補修されすぎていて、古代から遺されている部分があるのかどうかわからない。
チチェンイツァやウシュマルは石組みが崩れかけたり、雑草に覆われたりして遺跡らしさを醸し出しているが、こちらには古に思いを馳せらせるような演出がほとんどみられない。
巨大なレプリカに見えてしまうので、少し味付けして欲しいものだ。

<たびメモ>

メキシコ北ターミナルから遺跡へのバス(31ペソ)は頻繁に出ているようで、私が行った時もすぐに出発した。途中からも客を乗せ満員で走っていたが、遺跡で降りたのは数人だけ。観光客は大勢いたが、ツアーバスか自家用車が大半だった。
テオティワカンからの帰りもすぐ路線バスに乗れ、ルートは違っていたが行きと同じほぼ1時間でメキシコシティの北ターミナルに到着。現地ツアーで行くよりも利便性が高いと思われるが、市内から北ターミナルまで行くのに危険だと言われる地下鉄に乗らなければならないのがネック。

[メキシコ]ケレタロ

<ケレタロの水道橋撮影ポイント

メキシコの街に1km以上の水道橋があり、世界遺産に指定されているというので立ち寄ってみたが、「確かに水道橋あります、長いですねえ」ぐらいの感想しかない。(遺跡らしくない)

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<セネア公園からサンフランシスコ教会を望む>

メキシコの街はどこにでも教会と公園があり、涼しくなる夕方には公園のベンチが街の人々でいっぱいになる。長閑な人たちと一緒にぼんやりと時を過ごすのは実に幸せ。

<たびメモ>

メキシコのホテルはチェックアウトタイムが12時あるいは午後1時なので、部屋に荷物を置いたまま午前中いっぱい観光して午後に移動するというパターンを続けている。

バスはこの地域ではPrimera Plusという会社がメインなので、毎回そこのバスになっている。乗車時に軽食と飲み物がもらえるので昼食は車内で済ます。また、車内のトイレは完璧で便器に水が流れ、手洗いが付き、紙タオルまである。座席は36人分しかないのだが、乗車したバス3台のうち2台にトイレが2つ男女別にあった。
但し、車体は良くても運転は荒いので落ち着いて用が済ませられることは少なく、男性の小でも座って用を済ませるよう注意書きがあるのだが、守られていないのか床がびちょびちょになっている場合が多い。

[メキシコ]グアナファト

<ピピラの丘からの眺め撮影ポイント

なかなか変わった街だ。
かつて鉱山で栄えていたというグアナファト。狭い盆地に壮麗な教会や大学、そしてカラフルな建物が建ち並ぶ。また、石畳の車道が地下と地上を立体的に巡り、ガイドブックの地図がある中心地周辺でもメイン通りをはずれるとすぐ迷ってしまう。
観光地としての磨きが足りないので一般の旅行者にお勧めするほどではないが、個性的な街が好きな人は気に入るのでは。

<ラパス広場周辺>

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狭いながら公園が数多くあり、清掃や植物の手入れが行き届いている。♪この木なんの木気になる木♪の下で、朝、男たちが靴磨きをする姿が印象的だった。(右写真:フアレス劇場斜め向かいのラ・ウニオン庭園)
メキシコの男性は帽子と靴に気を遣うということで、街の公園などで靴磨き屋を多くみかける。

観光用施設はどれもぱっとしないが、私にとって印象的だったのはドンキホーテ肖像博物館だ。よくぞこれだけ集めたなというほどドンキホーテの絵画や彫像などが陳列されている。有名無名の芸術家たちによるドンキホーテやサンチョ像を1度に鑑賞できるのは感動的で、ドンキホーテファンであれば、この博物館を訪れるためだけにこの街に立ち寄っても良いかもしれない。(日本人には安売りショップのファンしかいないかもしれませんが)

<たびメモ>

街中心部の西はずれにあるPosada Juarez(200ペソ)は(部屋によって多少違うが)驚くほどに床とベッドがきれい。ホテルの前に長距離バスターミナル行きの市内バス発車場とツーリストインフォメーションがあり、大変便利。

[メキシコ]グアダラハラ

<カテドラル撮影ポイント

ノガレスから27時間のバス移動(区間距離とルート)でヘロヘロだが、やっとメキシコの観光が始まり気分が高まる。
グアダラハラはメキシコ第2の都市でさぞ治安が悪いのではと思っていたのだが、ホテルスタッフや親切な警官に尋ねた限り問題なく安全だという。
食事が口に合い、人も良さそうなので気に入っている。

観光地にいる警官は英語を話し、街の造りやレストランなどがヨーロッパ風で洗練されている。

ここの博物館は先住民の遺跡が興味深く、なかなか良かった。しかし、世界遺産オスピシオ・カバーニャスはイマイチな上、入場料が1年前の10ペソ(ガイドブック情報による)から70ペソ(約700円)と高騰しているのが気に入らない。
観光施設、ホテルなど全般に価格が2、3割上昇している。

<たびメモ>

バスターミナルはグアダラハラ中心部から10km離れ、ターミナルから中心部に入る際は赤の707か709と教えられ、709(9ペソ)に乗ったら1時間以上かかった。市内からターミナルに向かう際は地下鉄(5ペソ)で東の終着駅Tetlanに行き、地下鉄出口から150mぐらいのバス停からR-610(5ペソ)のバスで30分程度で着く。このルートで移動するのに街の人々に手当たり次第聞きまくったが、ほとんどみな親切に教えてくれる。その中で説明してくれた内容が理解できた人に従った。
警官やバスチケット販売員など英語が通じる人が多い。泊まったホテルのスタッフは英語がダメだったが、親切なおじさんたちで、バスターミナルまでのルートを紙に書いて教えてくれた。ちなみにホテルはAna Isabel(Single200ペソ)。エアコンなしが問題なければ、虫が1匹もいなく清潔でほぼ完璧な部屋。

[メキシコ]ノガレス(持ち逃げ)

<セントロの教会>

メキシコに入り早速トラブル。
15ドルを娼婦に持ち逃げされ警察に助けを求める。
話は長くなるが、成り行きは次の通りだ。

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メキシコ国境の街ノガレスのバスターミナル周辺で宿を探すが安くて45ドルしかない。仕方なく8km離れたセントロ(中心街)に向かう。セントロは国境に接していて、物乞いも多く、いかにも怪しい雰囲気。
そんな中で安宿が集中している地域で探し歩くが適当な部屋がみつからない。いいかげん疲れが溜まりどこでもよくなってきた9軒目のこと。入口から中を覗きこむと30すぎの女性が現れ、「何か?」と声をかけられ、私が「部屋を見たい」と伝えると、「それならこちらへ」と案内される。

「汚いなあ、特にこのシーツの汚さは」と私が彼女に伝えると「チップを出せば私がすぐ洗うわよ」と言う。部屋代を尋ねると、一緒に付いて来た大人しい男が彼女の通訳を介して答える。アメリカとの国境の街だというのにホテルスタッフですら全く英語を話さない人が多い。彼もその1人のため、掃除婦に思えるこの女性が通訳を買ってでていると思っていた。
25ドルという部屋代は私の感覚から異常に高いが、今までみてきたホテルの中では最も妥当な金額かもしれない。

私はこの部屋を取ることにして、お金は誰に支払うのかと彼女に尋ねると、彼にだと言いながら私の財布から20ドル紙幣2枚を取り上げ、目の前にいた男に渡す。
男が戻ってきた時、女がドアの外で彼と何か話し、その後ひとりで室内に入ってきてべちゃべちゃとわかりにくい英語で私に話しかけてくる。「何を言っているのかわからない」と言うと彼女は怒った様子で部屋を出て、そのままホテルの外に出て行った。この時、この女がホテルの従業員でなさそうだと気づき、男のスタッフに釣銭はどうなっているのだと尋ねた。

「釣りの15ドルは自分の分だと彼女が言うのであの女に渡した。今晩、彼女はあなたの部屋に来るんだろう?」
「何を言っているんだ。私は彼女を知らない。彼女はホテルのスタッフではないのか?」
私は青くなったが、スタッフの表情にも慌てている様子がうかがえた。
「いや私は彼女を知らない。あなたは入口から彼女と一緒に来たではないか。あなたが彼女を連れてきたのだ」
物静かで実直そうなこの男は英語をよく話す。彼は状況を正しく判断できなかったことを認めていたが、あの女は間違いなく娼婦だから盛り場に行って女をみつけ金を奪い返してくるよう私に言う。

その後、ホテル関係者3人と私が長時間言い争いをしていたが、スタッフは40ドルを私から直接受け取っていないので、釣りを私に渡さなかったことは落ち度ではないと主張してきた。私はそれでは警官を呼んで仲裁してもらうしかないなと脅すのだが、彼らはこの国で警察は役に立たない、そんなことをすればお互いが損するだけだと言う。

確かにひと昔前は、メキシコで旅行者が最も警戒すべきなのは警官だと言われていたようだ。今でも旅行者にたかる警官には注意するようガイドブックに書かれている。
女とホテルがグルだということを証明できない限り、私はこの件に関して勝ち目はなさそうだと感じてきた。15ドルは授業料だと考え、これ以上エネルギーを消耗するのは止め、25ドルだけ返してもらいホテルを出ようと考えた。
ところが、ホテルは一度金を支払った部屋はキャンセルできない。部屋に泊まらなくても返金は全くできないと主張。もうこうなったら警察を呼ぶしかないと私は言い放ち、勢いよく外に出た。

アメリカとの国境(航空写真)がすぐ近くなので、警官はうじゃうじゃいて、誰もが英語を話すと考えていたが甘かった。まず、街中に警官がみつからない。入国審査場付近に行き警官を1人捕まえたが英語を話さない。ここに英語を話す警官はいないのかと何とかスペイン語で伝えたのだが、あっさりnoと返された。
「なぜ(国境警官のくせに)英語を話さないのだ」
「あなたこそ、なぜメキシコに来てスペイン語を話さない」
私が若造警官に食ってかかると彼は反発してきた。
そこへ国境付近で旅行者のサポートを商売にする便利やくんが現れた。通常、悪徳な輩が多いので関わるべきでないのだが、今は非常事態である。

彼がこの警官の話を通訳したところによると、街の警察署には英語を話す警官がいるのでそこまで出向き訴えれば、ケースによってはホテルまで警官が同行するという。警察署まではタクシーで向かう距離のようだ。私は気が重くなった。タクシーで往復してこの便利やにたかられたら更に15ドルぐらいの出費になるだろう。
もうあきらめ気味に街中で別の警官を探そうととぼとぼ歩き始めた。しつこく付いて来ていた便利やくんが角の向こうにパトカーをみつけオーイと手を振る。すると不思議なことにパトカーが気づき近くに寄り、車から警官が降りてきた。便利やから説明を受けた警官が無線で本署に連絡して、すぐここに英語を話す警官が現れるから待っていろと言って走り去った。
ひと仕事した便利やくんが1ドルくれと言ってきた。警察が現れたら1ドル渡すから一緒に待つよう依頼する。半信半疑だった。メキシコの警察が15ドルぐらいのトラブルですぐ動いてくれるのだろうか。

ところが現れたのである。10分と経たずにピックアップトラックで4人もの警官がやって来たのには驚いた。ドライバーは年配の警官で、体格の良さ、精悍な顔つき、そして知的な英語から、この街の署長だと言われても疑わないほどの男。助手席には、この件の専門官として見た目迫力満点の中年女性が座り、更に非常時対応のためか力だけはありそうな若者警官2人が荷台でバーにつかまりながら仁王立ちしていた。
ホテルまで案内するようにと、私はトラックパトカーに乗せられる。便利やくんが「ミスターまだ1ドル払ってないぞ」と車の外で叫んでいたが、年配警官からどすの効いた声でたしなめられていた。

そして旅行者(私)と4人のメキシコ精鋭警察軍団がホテルに乗り込むわけだが、さあここで問題。

1. 娼婦が持ち去った釣銭15ドルを旅行者はホテルから返してもらえるか。
(ポイント)持ち去られた15ドルがホテルのものか旅行者のものかが争点になるが、旅行者側は旅行者に返すべき釣銭を女に渡してしまったのだから、15ドルはホテルの金だと主張。これに対してホテル側は、そもそも40ドルは娼婦の手から渡されたから釣銭を娼婦に返しただけで、旅行者が40ドルを娼婦に取り上げられた時点で彼女に盗られたのだと主張。

2. 旅行者はこのホテルをキャンセルして25ドルの返金を受けられるか。
(ポイント)旅行者は部屋を全く使用していない。信用できないホテルだとわかったのでキャンセル可能だと主張。これに対して、ホテル側はいかなる理由があっても一度金を支払えばキャンセルできないの一点張り。

さあ、最強のメキシコ警察軍団の裁定はいかに。このあと驚きの結果に当事者騒然。(ってほどでもないが)

≫結果

威厳ある警官4人の登場に私が期待したようなホテル側の動揺はなく、淡々と3人のスタッフがカウンターの内側に並び警官の対応をした。女性専門官がホテル側から話を聞いた後、私に尋ねた質問はひとつだけ、支払の40ドルは私から直接スタッフの手に渡したか、女からスタッフへだったかである。直接渡そうとしたところを女が割って入り、一瞬だけだが女の手を介した、と多少私に有利な説明をした。しかし、通訳の熟年警官は、あーダメダと思われる声をあげた。
「しかし、彼は私の財布から紙幣がでていくのを見てますし、だいたい彼女がホテル内にいたのだから、私は彼女をホテルスタッフだとしか思っていなかったんですよ」
私はダメもとで最後の主張をした。釣銭15ドルは取れなくても、いかがわしいホテルをキャンセルしてホテル代25ドルが返金されるよう警官たちに仲介してもらいたいと考えていた。

その後、状況を完全に把握した女性専門官からホテル側に対して、早口ながら迫力のある説教が続けられた。彼女から一方的な話が終わると、ホテルスタッフが神妙な面持ちでカウンター内から15ドルを取り出し私に渡す。
通訳の警官が説明してくれた。
「今回はあなたに落ち度があるが、ホテル側にもミスがある。このホテルは娼婦が自由に出入りできる宿だから、持ち去った女をつきとめるのが容易だ。ホテル側が責任をとって15ドルは奪い返してもらうのであなたに返却された。しかし、あなたはこの部屋に泊まらなければなりません。法律上キャンセルはできません」
「このホテルは大丈夫なんですか。安全ですか」
「ああ、問題ないですよ。しかし、周辺は危険ですから十分注意して下さい」
予想と反対の結果に驚いたが、私は損失なく安全を保障されたホテルに泊まることとなった。

そして、短時間で小さな揉め事を解決した4人の警察軍団は颯爽とホテルから立ち去った。
うーん、なかなかやるじゃないか、メキシコ警察。

そうだ、あの便利やくんに1ドル渡してあげないと。1ドルだけでいいかな。


<たびメモ>

(後日談)その後のメキシコ国内の部屋代と比べると、この街のホテルはどこも倍以上していた。さらに泊まった部屋はとにかく床を這う虫が多く、虫をつぶさずに室内を歩くことは不可能なほどだった。メキシコはどこもこんな感じなのかと恐れていたが、ノガレス以外の宿はみな驚くほどクリーン。たとえ体調を崩していても、この街には立ち止まるべきでない。
ここからグアダラハラまでのバスはEliteという会社の一等バスでトイレ付き車両だが、便器に水が流れず手洗いもないので2~4時間毎に停車するターミナルで毎回のように用を足していた。ターミナルのトイレはまあまあきれいだが、全て有料で3ペソ(30円)。
食べ物も時々補給しなければならないが、このバスは27時間中食事休憩は1回しかなかった(途中バスの故障で遅れをとったからかも)。ドライバーは乗客が全員戻ったかどうか確認しないことが多いので、特に1人で旅行する場合、最低限のスペイン語ができないとかなりの苦労が予想される。