ウズベキスタンのたび

タシケント

<強い日差しが照りつけるオールド・バザール>

首都タシケントに戻る。サマルカンドからの機内でも、ホテルのロビーでも、見覚えのある日本人たちがいる。明朝のウズベキスタン航空で日本に帰る旅行者がみな集まってきたようだ。今回の旅行は団体ツアーに参加したようなものだと諦めるしかないのだが、私は海外旅行中にはできる限り日本人と接触せず異国を味わいたいと思っている。
空港から最初に向かったホテルが日本人だらけだったので、2つめのホテルでチェックインして、路面電車で街中に出る。途中で目的と異なる路線を進み出したため、電車を降りて車掌が指し示す乗り換え駅に向かう。すると、その駅で日本人男性2人に会ってしまう。会話をすると、彼らも私と同じホテルに泊まり、同じように行き先の違う電車に乗って降りたところだった。ウズベキスタン内の旅程もほぼ一緒。ゴールデンウィークのまっただ中にこの国を訪れる個人旅行者は、経験、レベル、嗜好が似通っている。つい車内で話し込んでしまったが、これでは熊本の路面電車に乗っているのと同じではないか。

彼らと別れてから、日本のガイドブックに載っていない面白そうな場所を求めて歩き始めた。
昼食は、羊肉とナンばかりの料理に飽き飽きしていたので、ロシアの香りのする中級レストランに入った。しかし、英語が全く通じない店内で苦労することになる。ボルシチは注文できたが、ロシア料理としてもう一つ私が知っていたロールキャベツが通じない。英語風に発音して、手で巻く動作まですれば、店内の誰かが気づいてくれそうなものなのに、一向に理解されない。表現に疲れた私は、もうそれでいいと、視線に入ったピザの写真を指差した。
大きく食べきれなかったピザは、値段が5ドル以上もすることが清算時にわかる。スム紙幣が1ドル分足りないので、1ドル紙幣を合わせて支払おうとすると、とんでもない受け取れないと店員が慌てる。
『スム紙幣を持ってないんだから、しかたないじゃない。じゃあ負けてくれる。誰か両替してくれる人はいないの』
この程度の内容を英語では通じないので、ジェスチャーを交えて伝える。地方ではほとんど問題なかったドル紙幣のやり取りだが、タシケントでは厳しく罰せられると店員が言っているようだ。
1ドル分の支払だけでずいぶん時間を使った。口髭をたくわえた店員は、他に解決方法がないと悟ったようだ。彼は私を隅に連れて行き、店内に背を向けながらスム紙幣と共に1ドル紙幣をさっと受け取った。そして、ドル紙幣を胸のところで隠しスム紙幣の一番下に入れ、数枚の札を両手で包み込み一息つくと、そうっと後ろを振り返り怯えた目で店内を見渡す。そんなにドルを受け取ることが恐ろしいことなのか。喜劇役者のような滑稽な彼の動きに思わず吹き出してしまった。

異国ならではの楽しい出来事だったが、その後の私にはスム紙幣が両替できないという悲劇が待っていた。食事をした場所はホテルからかなり離れ、観光客を見かけない地域だった。スムがないため買い物ができなければ乗り物も利用できない。炎天下の中、銀行をたらい回しにされ両替所を探して延々と歩き続けることになった。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください