イエメンのたび

スーラ、スーラ(サナア)

<ポーズをとるサナアのお嬢さん/サナアの子と黒装束(2枚組)

『もっと、子供っぽくできないの?』
彼女にいくら言っても通じない。私はおすましした子の写真など撮りたくない。かわらしい表情を写したいのだ。
「スーラ、スーラ」
英語の全く通じない女の子は、アラビア語で写真の意味と思われるスーラだけを連呼する。

海外では貴重品を隠して歩けと言われるが、私は敢えてカメラをみせびらかすように手に持って歩く。そうすると、写真に撮られたがる子どもが近づいてくる。その時も一人の子が私を見つけるやすぐに駆け寄りカメラを指して、スーラと叫んだ。人通りの少ない路地で彼女にカメラを向けると、なぜか壁にもたれこんだり、髪を手でかきあげたりして子どもらしいしぐさをしない。そして、お決まりのように首を傾けて目を虚ろにする。女性雑誌の写真を意識しているとしか思えない。ねえ、手にボンボンを持ったままじゃ、アンバランスだよ。
デジカメで撮った写真を見せると、その子は飛び跳ねて喜び、もう一枚お願いというように、スーラ、スーラと言いながら私の腕を引っ張る。それは見たままの10歳過ぎの子どものしぐさだが、カメラを向けると、すぐに身構え、すましたポーズをとる。
彼女はよほど写真が好きなのか、場所を変えながら何枚も何枚も撮影させた。家の玄関、車のボンネット、トラックの荷台、周辺で見つけた様々な場所でポーズを作り、シャッターを切ると、走って結果を見に来る。
『ねえ、名前なんていうの?住所はわかる?写真送ってあげようか』
言葉がわからなくてもジェスチャーで通じるはずだが、彼女は反応することなく、スーラ、スーラを繰り返す。広い路地で撮影した時、黒装束の女性3人が通りかかった。写した瞬間に女性たちが近くにいたことに気づいた女の子は、まずかったというように口に手をあて、おどけた顔をした。
イスラムの女性は基本的に体のラインや肌の露出を禁じられているが、この国ではそれが厳格に守られている。だいたい12歳からヘジャブ(スカーフ)で髪の毛を覆うが顔は出している。しかし、16歳ぐらいから黒い布で顔も含めた全身を覆い隠され、男性はそのような女性に話しかけられず、見つめることも許されない。写真を撮るなど論外である。
それを考えると、このような天真爛漫な娘が大人びたポーズを取ることに哀れみを感じてくる。女性らしい姿を見せられるのは初潮前の子どものうちだけなのだ。

私は、彼女のしつこいスーラ、スーラにつきあい続けた。髪の毛をかきあげるポーズはいつまでできるのだろう。全身を撮影してもらえるチャンスはあとどれだけあるのだろう。
腕を引かれながら、言葉の通じない彼女に話しかける。
『ねえ、撮った写真欲しくない?』
『ねえ、どうしたら渡すことができる・・・』
『ねえ・・・』

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