イエメンのたび

熱さに負ける(シバーム)

<砂漠のマンハッタン シバームの昼下り>

イエメンの首都サナアから東へ飛行機で1時間の砂漠の都市サユーンを目指す。高度を下げ、道を走る車が見分けられる高さになった時、砂漠の中に忽然とビルの塊りが現れる。密集した草を束ねて鎌でざっくり刈り取られた切り株のように、同じ高さのビルが隙間なく固まって建つ。人間が造りだしたとは思えない不気味な光景だった。砂漠のマンハッタンと呼ばれるシバーム(ハドラマウト州)である。
シバームは空港のあるサユーンから車で20分の距離にある。近くで見ると特に変わったことはない、5、6階建てのビルが幾分狭い間隔で整然と並んでいるだけだ。これらのビルは泥をもとにした日干しレンガで造られ8世紀頃から建てられている。現在残っている建物もほとんどが500年以上経っており、この集落全体が世界遺産に指定されている。街中には常に日陰があるため砂漠の暑さは感じず、通りも清潔に保たれて、元気に走り回る子供たちが垢抜けてみえる。まるで都会の団地の中にいるようだった。

砂漠の道をサユーンに向かって走る車にはエアコンがない。気温は42、3度。お風呂で気持ち良いか熱いかの境目になるこの温度が、風にあたった時に涼しく感じるか熱風として痛みを感じるかの境目のようだ。私は車の窓の開け閉めを何度も繰り返していた。

ハドラマウト地方の中心地サユーンの道は、ほとんどが舗装され道幅も広いため日陰が少ない。宮殿や博物館、スーク(市場)などを訪ねて炎天下のなか歩き回っていた。2時間ぐらい歩くうちに足が重く感じてくる。なんか、靴がバタバタしているようだ。足下を見て驚いた。靴が大きくなっていたのだ。正確にはゴム底だけが1cm拡大して布製のアッパーから遊離しかけている。アディダス製の1万円以上もするトレッキングシューズが何とも無残な姿だ。アスファルトの上がそんなに熱かったのか。
かわいそうなアディダスくんを水で冷やし休ませてやったが、二度と元の姿には戻らなかった。

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