アルジェリアのたび

連行される(コンスタンティーヌ)

<コンスタンティーヌ最大のシディ橋(2枚組)

前夜、空路でコンスタンティーヌに到着して街はずれのホテルに宿泊した。朝、ホテルから中心街に向かうと、街の異様な景観が少しずつ目に入り、興奮する。最初の橋であるシディ橋に着いた。
橋脚のたもとには低所得者向けの路上市場が開かれ、そのはるか下には蛇行する川が見える。これはぜひ記念写真を撮らねば。1枚シャッターを切ったが、太い電線がどうも邪魔だ。いいアングルがないものかとファインダーをのぞきながらうろうろしていると、背中から肩を叩かれた。
「こっちに来なさい」
皮ジャンを着た男性がにこにこしながらフランス語で命令する。海外では、一般人が旅行者に対して偉そうに注意や命令をしてくることがよくあるため、私は英語で強く反発した。
「なんであんたに従う必要があるんだ」
その30歳ぐらいの男は仕方ないなあという顔をすると皮ジャンで隠しながら顔写真の付いた手帳を見せる。
「警察だ」
近くにいたもう一人の男も私服警官のようで、私は2人の皮ジャン男に両腕を捕まれすぐ隣の建物に連行される。このぐらいで拘留はされないだろうと思っていたが、20万円のデジカメか2万円のCFカード(写真ファイル保存用)が没収されるのではないかと恐れていた。
ビルに入るとそこは警察のオフィスだった。なんということだ、私は警察署のすぐ隣で、一般にこの手の国で撮影が禁止されている橋を撮っていたのだ。
「はい、パスポートを出して。フランス語は?」
「ほとんどできません」
「撮影許可書は?」
「持ってません」
「橋が撮影禁止だというのは知っているよね」
「いいえ、知りません」
真ん中に机だけが置かれた部屋で椅子に座らされ、対峙した警官から次々と質問を受ける。入れ替わり2、3人の同僚が部屋に出入りしてその様子を眺め、時々、口をはさんでくる。日本の刑事物ドラマにそっくりだ。

尋問の後、担当警官から延々と説教を受けていたが、パスポートの照会結果が報告されると彼の表情が穏やかになってきた。警官たちは、地図を見せながらこの地区はスリが多い、何々橋を渡るとその先はスラム街だから立ち入るなという注意をした後、30分ぐらいでパスポートを返してくれる。私は無事解放されたのがうれしくて、警察署を出た時には彼らから得た危険情報は頭からすっかり抜けてしまっていた。

街の中を歩けば、すばらしい橋がいくつも現れてくる。峡谷を跨ぐ街で橋を撮らずに帰るわけにはいかない。しかし、再度連行されればただでは済まないだろう。
「あの橋を撮影していいですか?」
交差点で立番する、いかにも気の良さそうな年配の警官をみつけ、遠くに見える橋を指差して尋ねた。
「ああ、ここから撮る分には構わないよ」
というようなことを答えたようだが、私にはウイの返事以外は理解できなかった。

その後は、皮ジャンの男がいないことを確認しながら、次々と現われる橋を手際よく撮り続けた。

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