[ベナン/ナイジェリア国境]Seme
コトヌー-ラゴス間のセメ国境(Seme Border)は悪名高きポイント。
どれだけ大変なのか見てみようぐらいの気持ちで通ったが、まあいろいろと酷かった。
この手の国では大なり小なり役人の賄賂要求があるものだが、ナイジェリアのチンピラ役人の行為はもはや強盗だ。
最初はベナン側国境近くの路上検問で警官に難癖をつけられた。
乗り合いタクシーを止められIDカードを出せと言われてパスポートを出したが、これはパスポートでありIDカードではない、IDカードを持っていないならオフィスまで連行すると息巻いた。彼らの脅しは賄賂要求のためではなかった。住所が書いていないものはIDカードではないとして乗り合いタクシーから引きずり降ろされ、彼らの車までで連れて行かれる。乗り合いタクシーのドライバーも一緒に付いてきて私の援護をしてくれていたが、ついにあきらめ私を置いて車を走らせると言い出した。
「ちょっと待った」と車に向かう運転手を制止して、私はなんとなく持参した国際運転免許証を鞄の奥から取り出した。1年前、ニュージーランドとオーストラリアに行く際作成したもので、ちょうど昨日で有効期限が切れている。しかし、これには顔写真が貼付され名前と住所がアルファベットで書かれている。
免許証を受け取った警官たちは、それでいいのかどうか判断するのにも時間がかかった。鶏のように首をこきこき捻りながら、1人がこれでいいのではないかともう1人に渡すと、彼もまた首をこきこき捻り、しばしフリーズした後「OK、行ってもいい」とパスポートを返す。30分ぐらい停車していたので乗り合いタクシーの同乗者たちは騒いでいるようで、ドライバーがIDカード持っているならすぐに出せよと不満しきりだ。
悪いね、にいちゃん、期限切れの国際運転免許証が役立つとは思ってもみなかったんだな。
ベナンの出国審査で列の後ろから処理状況を観察すると、パスポートを提出する際、自ら百円程度の賄賂を差し出す人が多く、たまにお金を出さない人がいると、パスポートを返さないぞという脅しにより収奪されていた。ところが、私に対しては何も要求せず出国スタンプを押して返してくる。様々な国の人たちが賄賂らしきお金を要求されていたのにどういうことだろう。日本人旅行者たちのワイロノー活動の賜物と思っておこう。
税関チェックなどなくナイジェリアに向かって歩いていたところ、建物の前に机を出して座っていた役人に止められる。予防接種証明書を出せと言う。出国時にチェックするのにどういう意味があるのかわからないが提示すると、コレラの予防接種がない(日本の検疫所の話では、コレラ予防接種の国際証明書というものは存在しない)とかイエローカードにスタンプが押されていない(後から確認すると押し印はある)から200円相当出せという。入国時にはこれで問題がないとして通ってきたのになぜ出国時に問題とされるのか理解不能だ。
私の「なぜ払う必要がある」に対して相手の「なぜ払わない」の押し問答になった。男の隣にいた女性係官が、200円払えばコレラの予防接種証明も書き加えた別の証明書を作成しますよと持ちかける。そんな偽証明書作りを持ちかけるなんて、あんたらまがりなりにも役人ではないのか。この男であれば30分粘っていれば何も支払わずに通れそうな気がした。しかし、これから難関ナイジェリア入りというところでそんな無駄なエネルギーを使いたくない。あまり信用できぬロンリープラネットによるとこの国境を600円以内の賄賂で通れればラッキーと思えとのことである。
そこで私はこんなもんでなんとかと、細かいお金をパラパラと渡した。男はおいおいこれだけかよと呆れていたが通ることができた。その額20円、ベナンのトイレ代相当だった。
5mほど歩くと同じような机に似た服を着て男が2人座っていた。先ほどの予防接種チェックも同様だが、何らかの表示があるわけではないので視線を合わせず通り過ぎようとすると、彼らは憤っている。しかたなく、「何か」と近寄るとイエローカードの提示を求めてきた。渡してしまうとまた返してもらえなくなるので、指に挟んだまま彼らに見せると、だめだコレラがないからこのカードは無効だと言うやいなや恐ろしいほどの速さと力強さで私のカードを奪い取り、机の引き出しにしまい込んだ。それは明らかにプロの盗人の技であった。
「5000フラン(千円)払え」
「そのやり取りはたった今、隣で済ませてきたところなんだけど」
「それはベナンでの事だろう。ここはナイジェリアだ。お前のカードは無効なので没収する。金を払わないならそのまま行け」
なんということか、知らないうちにナイジェリアに入っていた。こちらの悪徳役人は強面で力があり、大事なイエローカードを強奪した上で金を払わないと返さないと脅迫している。ベナンでの検疫チェックはナイジェリアの前振りでしかなかった。これはただ粘っているだけでは通れそうにもない。英語が流暢に話せれば「あんたの行なっている脅迫は明らかに犯罪行為である、よって日本大使館を通して強く抗議する」ということをギャアギャア騒いでいれば通れそうな気がしないでもない。(失敗すれば何時間も足止めさせられるかも)
一応私なりに迫力のない英語で抗議してみたが、強盗役人には何ら効果がみられず金で済ませることにした。もうトイレ代用の小銭はなくなっていたので、持っているなかで一番細かい百円相当のコインを差し出した。これだけじゃ足りないもっと出せと脅迫してきたが、もうこれしかフランがないと主張してやっと盗人役人からイエローカードを返してもらった。(イエローカードの有効期間は10年だったが2016年7月11日から生涯有効に変更。カードがより重要となると共に10年超過したカードに対する難癖への対応必要<WHOのPDF><厚生労働省検疫所:黄熱について>)
しかたなく金を渡すにしてもやつらにはトイレ代程度で十分。(ナイジェリアは物価が高そうなので20円ではなく40円程度か)
教訓として言えることは、ここの国境を越える前にやつら用のトイレ銭(小銭)を用意しておく必要がある。強盗が釣りを返すわけないのだから。
小銭が切れてしまった私はこれからいったいいくら要求されるのだろうとびくびくしていた。しかし、入国審査や税関らしきところでは賄賂要求がなく、その後は意外にもあっさりとナイジェリアに入国できた(であれば検疫チェックでもう少し粘るべきだった)。結局120円強奪されただけで済んだのはラッキーだったと考えるべきなのだろうか。(汚職撲滅を掲げるブハリ大統領が2015年5月に就任して以来、賄賂要求はかなり穏やかになったとの噂あり)
その後、乗り合いタクシーターミナルまでの500mを歩いているうちに3回のパスポートチェックがあり、タクシーに乗ってからも無数の検問で徐行させられる。ラゴス郊外のターミナルまで90kmの間に30以上は検問があっただろう、発狂しそうになった。
全ての検問でチェックされるわけではなく、うまい具合に3回に1回程度停止させられ、トランクだけのチェックとパスポート類を含めたチェックの2種類がある。対向4車線の高速道路を快適に飛ばしているとすぐ渋滞があり、車1台ずつを係官が確認して許可されないと通過できない。どう考えても同じ内容のチェックを特に国境付近では1km間隔ぐらいで実施しているのだから相当無意味な行為である。
また、検問が少なくなってきたころにはとんでもない渋滞が頻繁に起こる。ラゴスの渋滞は尋常でないということを知っていたので、中心部に入らず数km郊外のMile-2 Motor Park(国境からのルート)というターミナルで乗り換え地方に向かおうとしていたが、それでもアクラの渋滞など全く比較にならぬものがあった。超低速走行による排ガスの充満、異常な接近と強引な割り込み、歩道や中央緩衝帯など車道以外の走行、ストレスクラクション、どれもこれも発狂しそうなほど酷い。これら渋滞は全てバス乗降場で発生していて、何台ものミニバスが横に二重三重に停車して車線を塞いでいることにより起こっている。何のことはない、秩序さえ守れば防げるのだ。
かくして、石油産出国ナイジェリアは世界的な流れに逆らい反エコロジーを貫く国であった。
[首都]アブジャ(1991年ラゴスより遷都)、 [通貨]ナイラ(2008年11月, 1ナイラ=約0.84円)
[公用語]英語、 [宗教]イスラム教50%、キリスト教40%、伝統宗教10%
[入国ビザ] 必要、アクラで取得(20ドル)、日本での取得は招請レターなどがない限りかなり困難との噂
[歴史/概要]
17世紀から19世紀、ポルトガル人、イギリス人などがアメリカ大陸へ送る奴隷のために海岸に多くの港を建設し、奴隷海岸と呼ばれていた。19世紀末に南部を支配していたベニン王国は周囲のハウサ、ヨルバの王国もろともイギリスに滅ぼされて植民地化される。1960年に連邦共和制国家として独立するが、汚職や政変が絶えず、政治が腐敗したまま現在に至っている。
世界有数の産油国であり、人口1億4千万人の大国で、教育水準も高いとされるが、政治の腐敗のため経済が低迷しインフラ整備は進んでいない。北部は乾燥地帯でキャラバン貿易を通じてイスラム教を受容しており、南部は熱帯雨林地帯でアニミズムを信仰し後にヨーロッパの影響を受けキリスト教が広がった。
ボビー・オロゴンの出身地であるイバダンは南西部に位置し、ラゴス、カノに次いで3番目の大都市。