アルジェリアのたび

カメラマンだという運転手(ティムガッド)

<古代ローマ遺跡 ティムガッド(2枚組)

コンスタンティーヌから120km南にあるバトナまではバスを乗り継いでたどり着いたが、そこから東へ40km弱のティムガッドまではバスがなく、タクシーで向かう。運転手は気の良さそうなおやじだったがフランス語でしきりに話しかけてうるさい。
世界遺産のティムガッドは事前に写真で見ていたが、想像よりもはるかに規模が大きい。これほどの遺跡にもかかわらず観光客がほとんどいない。治安上と遺跡保護のため、私ひとりでの入場が許されず運転手が常に付き添うこととなった。私がカメラを取り出すと彼は言った。
「実は、私はカメラマンなのだ。」
何言ってるんだ、あんたタクシーの運転手じゃないか。しかし、運転手もやっているが、本職はカメラマンだと男は主張する。
私は静かな遺跡内を気が向くまま歩き、気にいったところを撮影するつもりでいたが、このカメラマンだという運転手は、やれこちらから写した方がいいとか、そっちの方向は逆光だからよくないとかうるさい。そして、あんたを写すからカメラを貸してくれというので撮らせてみた。結果がすぐディスプレイで見られるデジカメに男は驚く。彼の写真は斜めに傾き私の頭が切れていた。全然うまくないじゃないか。運転手はショックを受け、撮影に口をはさまなくなった。

時間が遅くなったため、帰りは彼の車で一気にコンスタンティーヌ空港まで向かうことにした。夕方5時を過ぎると急に風が冷たくなる。運転席側の窓が開いたままなので閉めるよう促すと、どうやら窓が壊れているようだ。失敗した。そうとわかれば、バトナで車を替えたのに。私が文句を言うと、問題ない暑いじゃないか、と男は高笑いする。もう耐えるしかない。私はありったけの服を取り出して着込んだ。
外が暗くなり寒さが更に増してくると、運転手は明るく大きな声で歌いだした。風が直接あたる運転手はこちらよりはるかに寒いはずだ。
「次は日本の歌を聞かせてくれよ。」
運転手が求めるが、じっと丸くなったままの私は応じない。彼はしかたなく同じ曲を歌い出す。さすがに寒いのか車の速度が落ちてきた。
「ねえ、何か歌ってくれよ。」
「歌はいいから。飛行機に間に合わない。急いでくれ。」
笑顔が消えた運転手は、冷たい風があたる顔を引きつらせながら同じ歌を繰り返していた。

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