エチオピアのたび

男だけの天上の世界(デブレ・ダモ修道院)

<デブレ・ダモ修道院への唯一の入り口(1枚目)/トイレを案内する修道士(2枚目)

テーブルマウンテンにあるデブレ・ダモ修道院に入るには、15mのロープを伝って断崖を登るしかない。

1日間のアクスム滞在で街の北60kmにあるという修道院を訪れるのは難しくないだろうと思っていた。空港から街への乗合タクシー運転手に修道院までの車の手配を依頼した。
「ここは、車が少ない。急に車を準備するのは難しい」
「無理ならいいよ。他をあたるから」
「いいや、少しだけ時間をくれれば何とかする。車は何でもいいか?」
私はホテルで昼食をとりながら車の到着を待つと、1時間後にやってきたのは小型マイクロバスだった。しかも、その車は私を乗せたあと街のバスターミナルに入り、大勢の客を乗せる。これは定期バスなので郊外の集落までは一般客を乗せて走る、と車掌が説明した。
狭い車内に20人以上乗り、何度も停車を繰り返すのでバスはなかなか進まない。1時間ほどで最後の集落を過ぎると、車はやっとチャーター便となった。しかし、大勢の乗客が降りたにもかかわらず、バスのスピードは全くあがらない。そして激しく揺れる。道は単なるダートロードではなく、硬い岩盤に凹凸がついた洗濯板状の道が延々と続いていた。低速で走る車内で強いバイブレーションが全身を襲う。

集落を過ぎてからは、すれ違う車は地元か国連の軍用車だけだった。民家もなく、軍のキャンプ地が時々現れるだけである。外務省から最高度の危険情報が出されていた国境近辺であったからやむを得ない。不安を感じながらも壮大な景観に見とれていると、あれがデブレ・ダモだと車掌がテーブルマウンテンを指差した。

アクスムを出てから3時間、平均時速20kmの移動で修道院の入口に着く。いきなり、ロープを使って登る修道士の姿が目に入り驚く。
修道士たちは1本のロープだけを頼りに自力で登るのだが、観光客には補助ロープが上から垂らされ、体に巻きつけ引き上げてくれる。しかし、メインのロープが指が回り切らないほど太いため力が入らず、このような登攀が初めての人間にとっては、垂直以上の角度を登っている気がして非常に怖い。
なんとか登りきると補助ロープを引き上げた男が、修道院の入場料と補助ロープのサポート代を徴収した。それほど高い金額ではなかったが、補助ロープ費用を別に取るとは。あんた、清貧に暮らす修道士じゃないのか。
彼に案内されてテーブルマウンテンの上まで進むと、我が目を疑いたくなるような別世界が広がっていた。平坦で広々とした土地に礼拝所、住居、貯水池、食料倉庫など百人以上の修道士が生活するために必要な施設が整っていた。女人禁制のこの場所は、たとえ鳥でも雄のみしかこの地に入ることが許されない、男だけの天上の世界だった。
当然まともなトイレがあるだろうと修道士にその場所を尋ねると、こっちに来いと絶壁上に建つ小屋へと向かう。すると、その男はトイレと思われる小屋に入らず崖っぷちぎりぎりに立つと、数十メートル下に向けて自ら小水を放つ。私にもその行為を促し、どうだ気持ちいいだろうと高笑いした。
また、修道士は私に自分の写真を撮らせ、ぜひ次に来る日本人にその写真を持たせて欲しいと依頼する。こんなところまで来る日本人を私が見つけだすのは、不可能だと思うんだけど。
見学を終えた後は恐怖の懸垂下降が待っている。上から見下ろすと、補助ロープがあるとわかっても足がすくみ降りるのをためらってしまう。修道士は帰りにも補助ロープ代を要求する。しかも、登りの倍である。下りはより危険なので、2人の人間のサポートが必要なのだというのが彼らの言い分である。文句をいうと、いやならいいよ、補助ロープなしで下りれば、とこちらの足下をみる。

人里遠く離れた天上の世界で生活する、世俗的な修道士であった。

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