やわらかに風が[お知らせ]

フランス人旅行者

海外を旅していると現地の人たちから様々な場面で親切な行為を受ける。親切にあずかるばかりで何もお返しができず借りが蓄積してしまっているような気がしていた。

軽井沢のスーパーで食料を買い帰宅しようと峠に向けて車を走らせていると、紅葉シーズンの賑わいを過ぎた国道沿いで男女がこちらを向いて立っていた。近づくにつれ、彼らが外国人でヒッチハイクのサインを出しているのに気づき急ブレーキをかけた。日本でヒッチハイカーを見たのは初めてだったので反応がかなり遅れたのだ。
「峰の茶屋へ行きたい」
壮年の白人男性がまともな日本語で話してきた。これから越えようとしている数キロ先の峠なので何の問題もない。ぶっきらぼうに「いいよ」と後部座席に2人を乗せた。

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(注1)「ありがとうございます」と日本語で2人が頭を下げたが、その後からは英語だった。 峰の茶屋経由で白糸の滝まで歩こうとしたが、国道に歩道がなく危険を感じたので断念したとのこと。話しを聞くと、彼らはフランスから2週間の予定で訪れている観光客で日本は初めてだと言う。私にとっては海外で受けた親切の借りを返す絶好のチャンスかもしれない。

国道の急坂を登っていくうちに浅間山が見えてきた。
『鬼押出しのある浅間山か』とガイドブックを見ながら尋ねてきたので、『鬼押出しに行ってから峰の茶屋へ戻ろう』と提案した。
旅行者は『結構、結構』と恐縮していたが『車で数分の距離だから』と半ば強引に観光スポットの鬼押出し園に向かった。

鬼押出し園駐車場に着くとごつごつした溶岩群が広がる景色に彼らは驚いていた。『足が悪くて同行できないので30分ぐらい待ってようか』と伝えると、彼らは『ダッシュで見てくるから』と車を降り、入口前の歩道橋から眺めただけだが笑顔で戻ってきた。
『すばらしい、感動した』と欧米人らしいジェスチャーを交えて賞賛されると、こちらもかなりうれしくなってくる。(注2)

『すぐ近くだから』と浅間火山博物館にも連れて行った。博物館周辺には散策ルートがあり、浅間山を間近から見上げたり鬼押出し園を見下ろしたりできる。
『いったん家に帰って30分以内に戻って来るから1時間ぐらい散策してて』
私の言葉に2人は困った顔をしていたが、私としては買い物して車に積んだままの食料品を冷蔵庫に入れ、いくらでも彼らに付き合える態勢にしたかったのでなんとか納得させた。
私が30分ほどで火山博物館の駐車場に戻ってくると彼らはすぐ車までやってきた。ちゃんと観光できたのか心配になるほどの早さだったが、散策ルートも歩き上から見下ろす鬼押出しも堪能できたそうだ。

彼らが『峰の茶屋で十分だ』と言うところを少し先にある白糸の滝まで連れて行く。
私はフランス人に対する奉仕が十分だと思っていなかった。もう午後3時近くだったので、このまま彼らを連れ回し軽井沢のホテルに送り届けようという気でいた。しかし、カップルは受け入れてくれなかった。
『日本の森を短い距離でも歩きたいのでもう本当に結構なんだ』
そう言われ、親切を押し売りしすぎたかなと反省してここで別れることにした。(注3)

『パリにまた来るよね』
彼が確認した後、『さっき買ったもので申し訳ないが』と浅間山の絵はがきを手渡した。裏には噴煙を上げる浅間山とその前で喜ぶ2人の似顔絵、そして私と車の絵が描かれ、エッフェル塔の絵の下に彼らの名前と電話番号が記されていた。私がいったん家に戻っていた30分間、観光せずにこんなことに時間を割いていたのかと思うとじーんときてしまう。
私の親切攻撃をかわし、フランス人に1本返されてしまった。

しかし、反撃はこれだけでなかった。
『これは我々の気持ちだ』と火山博物館で買った浅間みやげの日本酒を差し出してきた。
『とんでもない、こんなもの受け取れない』
『それでは我々の気持ちが収まらない、我々のためだと思って受け取ってくれ』
いやいやいや、まあまあまあと押し合いしていたが、私が折れるしかないんだなと観念して酒を受け取った。(注4)

滝入口までのみやげ屋が並ぶ通りは日本人観光客で賑わい、フランス人カップルは否が応にも目立つ。
「Thank you. Merci beaucoup」
別れ際、笑顔の2人から何度も礼を言われた。私は周囲からの視線を感じ、しばし高揚していた。

外国人に親切のお返しをするつもりだったのにまた借りをつくってしまった。もっと日頃から修練しないと。(注5)

(注1)ここまでの私の行為はガーナ人の不愛想な親切のようで良かった。
(注2)親切にされた場合、喜びを上手に表現すれば十分お返しになりそうだ。
(注3)車で送ってあげるとしてもあのキューバ人のようにさりげなく行うべきだったかも。
(注4)私はあのアルメニア人から学んだことを全く活かしていない。『日本に来てくれてありがとう。本当は一緒に飲みたかったんだけど宿で2人で飲んで』と私が酒を渡すべきだった。
(注5)以上言いたかったのは、最低限の日本語を覚え旅してくれているフランス人カップルの気遣いがうれしく、私には勉強になったということ。それから、海外で親切にしてくれる方々の気持ちが少しわかったような気がする。親切にあずかると申し訳ないとか何かお返ししたいと感じてしまうが、(できれば周りに現地の人たちがいる中で)精一杯感謝の気持ちを表現すれば十分なのかもしれない。

<踵痛その後>

2010年3月から1年半以上続いている踵をはじめとした足首から下の痛みについて。

スポーツ整形を得意とする2つの医院で、医師は明確な診断を下さずリハビリに回し、理学療法士が運動過多による足底腱膜炎(足底筋膜炎)と判断してストレッチや筋力トレーニングを1年以上行なっていた。
ネットで調べてみる限りそれしか近い症状がみつからないので、自分でも納得して受けていたが、ストレッチをすると痛みが出て張りを感じる。リハビリ後は冷やすよう言われ毎回冷やしていたが、ストレッチ後の痛みが増し反応が過敏になって、ストレッチした部分に皮膚炎を発症するまでになってしまった。

一般の整形外科医ではダメだと思い、足の外科学会の医師を探し、2011年4月から車で2時間以上かかる5つめとなる整形外科医院に通い始める。そこの医師は、私の踵痛は足底腱膜炎によるものではなく外反扁平足障害だと診断を下した。そして、ストレッチは気休めにしかならない、炎症を起こしているときに冷やすのも暖めるのも意味がないなどと、今まで私が受けてきた治療を全否定して、足底板の使用を勧めた。
今までの医院では、ストレッチにより足が柔軟性を回復しないと却って痛くなるだけと足底板を作らなかったので懐疑的な気持ちで始めたのだが、これが驚くほど効いた。内履きの靴に足底板を敷くことにより室内で生活している分には踵痛を感じることはなくなった。
しかし、50mも歩くとすぐ痛みが出てくる。医師は足底板に足を慣らせばそれも改善するかもしれないと言っていたが、目安としていた数ヶ月経っても変化がない。
慢性痛のため脳が過剰反応しているのではないかと言われ、その医師は勧めなかったがペインクリニックに通ってみることにした。

2011年10月、ペインクリニックの初診で腰に硬膜外ブロック注射を打たれる。その後、背中全体に痛みを感じるだけで踵痛の軽減はなかったが、この注射は数本打つ必要があるようなのでしばらくこの荒療治に耐えようと思っていた。しかし、1本目の注射の結果から腰から下の神経の問題ではなく首から上の問題でしょうということで、神経痛用の薬であるリリカが処方される。

まだまだ快復のきざしが見いだせず、沈んだ気持ちで病院から帰る途中、フランス人旅行者に会い、気持ちを明るくしていただいたという話しでした。

4 Responses to フランス人旅行者

  1. PoPo のコメント:

    素敵なフランス人の方々と出会えたのですね。
    似顔絵入りのポストカードだなんて、心にも残り思い出の品としても残り、一石二鳥ですね。
    さりげない親切も、心温まる深い親切も素敵ですが、やはりその人なりの独自の親切があるのでしょう。
    yawakazeさんの親切も、気持ちが伝わったからこそフランス人のお二人もお礼を受け取って欲しかったのでしょうね。
    私はこのエピソードを読んで、TPO的な親切よりもその人それぞれの個性ある親切のほうが、良い思い出になると思いました。
    そんな私は英語がさっぱりなので、日本語とジェスチャーと笑顔のみでの、新幹線の案内や買い物のお手伝いくらいしかできませんでしたが…。

    足のほうはまだまだ痛みもあって大変なようですが、根気よく治療に励んでくださいね。
    明確な病名がなかなか出してもらえなかったり、治療をしても回復の兆しが著しいと、どんなに強い人でも滅入ってきたり投げやりになってしまいがちです。
    愚痴もこぼさず人に親切にすることを忘れないyawakazeさんを陰ながら応援しています。
    辛いときなのは承知ですが、どうかここは辛抱して踏ん張ってください!

    • yawakaze(サイト作者) のコメント:

      丁寧なご感想をお寄せいただきありがとうございます。
      日本で外国人旅行者を見かけたらできるだけ手助けしようと常々考えておきながら、地元の観光スポットすら英語でまともにガイドできず反省しました。また、何度か覚えたはずのフランス語が全く出てこなくて悔しい思いをしたため、英語とフランス語を日々勉強して、次いつ訪れるやも知れぬ機会に備えています。

  2. 通りすがり のコメント:

    足底板、土踏まずに当たると痛い人がいますがどうですか?
    私もスポーツでよくインソール作りますが、土踏まずに当たると歩行が3分持ちません。

    • yawakaze のコメント:

      もともと土踏まずの全くない先天性扁平足のため、足底板が当たって痛いということはないです。市販のインソールはほとんど効果が感じられませんでしたが、足の外科医院で自分の足に合わせて作ってもらった足底板は効き目が十分あります。
      足底腱膜炎の患者はストレッチを十分行ない腱を柔らかくしてからでないと足底板を付けても痛くなるだけと理学療法士がしきりに言ってました。私の場合、足底腱膜炎でなく扁平足障害だったので、できるだけ早く自分の足に合った足底板を付けるべきだったのが、それを行なわず誤った治療を長期間受けたことにより慢性痛になってしまいました。

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