[スロベニア]リュブリャナ
やはり、東欧の街はこんなものか。食べ物がもう少し安ければ街のつまらなさを補えるのだが。
パターンが同じなのだ。険しい高台の上に城があり、街中に高い尖塔を持つ教会があり、川が流れて、旧市街には赤い瓦屋根の建物が並ぶ。
宿はユースホステルになってしまった。ドミトリーでなく個室という条件は維持しているが、半地下にある広々した部屋にベッドと椅子だけが置かれ、他は何にもない。独房でもトイレはあるはずなのに。
それにしても、こんなによく反響する建物をなぜ宿として使っているのだろう。ドアの開け閉めや廊下を歩く音、水まわりのあらゆる音、そして脳みそがひっくり返っているようなヨーロッパの若者たちの話し声が、独房のベッドに横たえている頭の芯まで響く。
とは言いながら、スロベニアはすばらしい国だった。人がみなにこやかで、やわらかい。少なくとも私が接した全ての人が英語を上手に話す。列車やバスはドイツやオーストリアなみの正確さと清潔さがあり移動が楽。トイレも比較的多く清潔で、ペーパータオルが付いていることが多く、さらに全て無料なのがヨーロッパにしては驚きだった。
ブリキの石油缶の中にいるようなユースホステルの部屋で夜寝付けなかったため、翌日、予定の時間に起きられなかった。トーマスクック時刻表に載っていないローカル列車に乗り込み、国境の駅まで調子よくたどり着いたが、そこからの乗り継ぎが3時間半待ちになった。しかたなく駅周辺の片田舎を散歩する。国境の町にしてはのどかすぎる。やはりヨーロッパは安全なんだなと思っていた時、パトカーがすごい勢いで走ってきて私の前で停まった。
『すみません、パスポートをみせて下さい。国境付近は不法入国者が多いので、この辺を歩き回る外国の方を確認させていただいてます』
ほんの数分しか歩いていなかったのに誰かが通報したのだろう。にこやかな笑顔で警官がパスポートをチェックする。
『ありがとうございました。これが我々の任務ですので。ご不便おかけして申し訳ありません』
海外と比べると、日本の警察はへりくだりすぎの嫌いがあるが、彼らはその日本の警官にも劣らぬ腰の低さ。
スロベニアは、観光資源は豊かでないが日本人にとって心地よく感じる国だ。