パキスタンのたび

夜のカラコルムハイウェイ(ギルギット)

<カリマバードからアルティット・フォートを望む(1枚目)/フンザの陽気な子(2枚目)

イスラマバードに戻るため翌朝8時に空港に向かうと、何か様子がおかしい。まだイスラマバードから飛行機が着いていないのに人々が外に出てくる。私がカウンターでチケットを差し出した時、それはスタッフから告げられた。
「本日のフライトは天候不順のためキャンセルです。明日の便に振り替えて下さい。」
好天ではないが天気は悪くなかった。問題なく飛ぶものと思っていた私は頭が真っ白になった。一昨日、昨日と休む間もなく動き、調子よく旅を進め、今日はイスラマバード市内と周辺の遺跡観光をしてペシャワールに夜入るという過密プランで気を張りつめていたのだが。
空港からホテルに戻り休ませてもらうと、緊張の糸が切れ、疲れがまわってきたのか下痢を伴った腹痛に襲われる。部屋で横になり考える。明日の朝もう一度フライトにかけるか、今日から少しずつバスで移動するか。しかし、今日の天気で飛ばないのであれば、よほどの晴天でなければ無理なのだろう。
少しずつ雲が厚くなると共に気が重く、腹痛もひどくなる。この調子では今日中にバスに乗るのは無理と思われる。そうすると車のチャーターしかない。明日もフライトがなかった場合、車をチャーターして戻ることで考えがまとまった。
夕方になり、車の値段と時間を確認するためにふらふらと街に出て、旅行代理店で尋ねる。
「イスラマバードまでとばせば12時間ぐらいかな。」
おお、直行バス20時間と比べてはるかに早い。それではペシャワールまでダイレクトに行くこともできるのでは。ペシャワールまでは14時間だという。料金はペシャワールまでの飛行機代プラス100ドル。そこまで金を出すなら夜行で走り、当初の予定を取り戻すか。気合が入り、俄然、元気になる。
「すぐペシャワールに向けて出られる?じゃあ6時。今晩6時出発。」
急遽思い立った強行策に挑むこととした。

薄暮のカラコルムハイウェイをカローラが飛ばす。ディルバールという名の運転手は、軽快に右へ左へとハンドルを切っていた。峡谷沿いを走る道は、陽が落ちてもヘッドライトで浮かび上がる景色が幻想的だ。
時々休憩するドライブインは夜通し走るバスやトラックで溢れ、真夜中にもかかわらず不気味な活気に満ちている。お茶や食事の他に仮眠をとる施設もあり、疲労がみえてきた細身のディルバールは、もうここで泊まってから行こうとか、せめてひと眠りだけさせてくれと哀願する。弱音を吐く運転手に私が活を入れると、彼は窪んだ眼を見開き、薄暗いライトで照らしだされたワインディングロードを疾走する。

朝7時すぎ、予定より早くペシャワールの街に入った。ディルバールくん、やるじゃないか。朝陽に照らされた彼の頬がげっそりとこけて見えた。まあ、気のせいだろう。

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