パキスタンのたび

気弱な運転手(ペシャワール)

<夕暮れに走る乗り合いバス>

ペシャワールでハイバル峠の次に目指すのは、世界遺産の仏教遺跡タフティ・バーイだ。市街から80kmにあるという仏跡に向かう車をみつけるため、私はタクシー・スタンドを探した。
タクシードライバーは気弱で虚弱な体躯がいい。黄色い小型車の溜まり場で、これはという男をみつけ、遺跡の名前を言うが、彼は知らないと言う。おい、世界遺産だぞ、誰かに聞いて来いよ。4、5人の仲間に尋ねてようやくわかったようだ。
彼は大丈夫、問題ないと言って出発した。車が郊外に出ると陽が傾き始めているのが強く感じられる。私は助手席の窓から身を乗り出し、夕陽を浴びながら走るバスを撮影していた。ドライバーはなかなかそのバスを追い抜かず、バスが停車すると、タクシーも後方に停止させた。
「おい、なぜ停まるんだ。」
「フォト、フォト、バス、フォト。」
「バスの撮影は終わったんだよ。日が暮れる、急げ。急いで遺跡に向かえ。」

1時間半たってもまだ着かない。運転手はだいたいの方向を聞いて走りだしただけで、遺跡の場所は全く知らない。彼がその場所を知ってそうな警官や街の人に尋ねてもバラバラの方向を指差しているようだ。運転手が延々と街はずれの道を走り、2時間以上経ちもうあきらめかけた時、ここだ、と言って車を停めた。
外に出ると、完全な暗闇だと思っていたがまだなんとか見える。小高い山に向けて歩行者用の道をみつけ、私は1人で懐中電灯を照らして登った。こんな暗い山の中で襲われたら終わりだ、この周辺はゲリラも多そうだし、そう考えながら歩いていると、突然頭上からハローと声をかけられ、私は固まった。
しかし、その男はここのスタッフだった。ここは間違いなくタフティ・バーイの遺跡で、スタッフが帰ろうとしているところに出会ったのだ。
彼は暗い遺跡内をガイドした。仏像を保管する一部の場所以外に灯りはないので、星明りと私の小さな懐中電燈で雰囲気を味わった。山に囲まれた断崖上にあり、僧院などが広範囲に点在する見ごたえある遺跡のようだ。ガイドがこちらの上の方にはと真っ暗な山上へ連れていこうとしたが断った。もう、私には何も見えていない。もう少し早く着いていればと悔やまれる。

帰り道、喉が渇いていたので商店の前で停車させてコーラを頼む。だいぶ叱りつけた運転手にもごちそうしよう。2人分を支払おうとしたが、店主がつり銭がないというので運転手に立て替えてもらう。
ホテルに着き、タクシー代800ルピーと2人分のコーラ代20ルピーの支払として900ルピーを渡し、つり銭を要求した。すると、運転手がこんな金額は受け取れませんと手を出さない。目的地が遠かったため2,000ルピーになると言う。確かに彼が想定していた場所より遠かったようだが、私が目的地を変更した訳ではない。彼が目的地を知らず、彼の推定で金額を決めたのだ。こちらとしては、彼が道を知らなかったおかげで到着が遅れほとんど観光できなかったのだから、半額にでもしてもらいたいところだ。
私は再度説明の上、900ルピーを差し出し、80ルピーおつりをくれと言ったが、彼はだだをこねた子供のように下を向いて首を振る。頭にきて800ルピーを小柄な運転手に投げつけると、ルピー紙幣が狭い車内をひらひら舞った。私はホテルのフロントに向かって歩き出し、彼が追いかけてくるだろうから、フロントのスタッフに調停してもらおうと考えていた。確かに距離にしては安いかなと思われるのと、おごったつもりのコーラ代分が足りないのが気になっていた。

ホテルの入口前で私が振り返った時、黄色い小型タクシーはUターンして立ち去っていった。おい運転手、気弱すぎじゃないか。

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