イエメンのたび

オレンジの街灯(サナア)

<サナア旧市街 スークの雑踏>

サナア旧市街の城門をくぐれば、スークが至るところにあり、狭い路地が人で溢れている。そして、なぜか真昼でもオレンジの街灯が燈される。

この国には歩行者道路という概念はない。数百年続く石畳のゆるやかな坂道でも十分な幅があれば車が通り、車が走ればその道は車優先だ。
車が通ると歩行者が建物の壁につくように横にならなければならない、そんな細い路地だった。自転車に乗った10歳ぐらいの少年が石畳の真ん中で車輪を取られ、足を着いて立ち往生していた。そこへ後ろから小型トラックが来た。自転車後方の泥よけに車のバンパーをつけ、すぐどけろとクラクションを鳴らす。少年はその行為に怒りを表し、振り返って運転席の方を睨みつけた。しかし、すぐに前を向き直し自転車のペダルを踏もうとした時、トラックが前に進み自転車と少年を倒した。少年はすぐ起き上がったが、自転車の泥よけがぐにゃりと曲がる。何という車だ。私は怒りを感じたが、周りの大人たちは黙って見ている。
少年は猛然と車に向かい、運転席の窓をたたいて抗議した。その時、トラックの荷台から若い軍人たちが降りてきた。その車は軍人輸送用のトラックだったのだ。1人が少年を突き倒し、1人は道を塞いでいた自転車をトラックの後方にほおり投げた。男の子は再び彼らに立ち向かったが青年に強く押し戻される。そして、軍人たちが荷台に乗り込むと、小型トラックはクラクションを鳴らしながら狭い路地の奥へ走り去った。
泣きべそをかきながら自転車を動かそうとする少年を大人たちは助けようとしない。

ただ、オレンジの街灯が少年と自転車をほのかに燈していた。

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