イエメンのたび

カートだけの披露宴(サナア)

<サナア旧市街の披露宴>

イエメン最後の日にサナア旧市街を歩く。一般に首都の街中はぎすぎすしているものだがサナアは違う。地方では人々が粗野で攻撃的ですらあるが、サナアは大人も子供も概ね穏やかであり、やすらぎを感じる。イエメンは地域により現在でも部族間の闘争が多く、緊張感の中で生活しているからかもしれない。
おっとりしているサナアの人々は午後になると働いている男性の多くが黙々とカートを噛み始め、更に静かになる。街のあちこちで、店員、運転手、建築労働者などが集まり、カートを噛み始めて頬を膨らませる。長い人は昼食後から夕方まで噛み続けるため、午前中に少し仕事して、昼近くにはそわそわとして良質のカートを探し歩き、午後はずっとカート・パーティで一日を終えるということになる。イエメンの経済や文化が発展しないわけである。

大きなテントの入口に人だかりができていた。テントの中から音楽がかすかに聞こえる。私は入口に群がる男たちをかき分けてテントの中を覗き込んだ。男たちが隙間なく腰掛けるテント内で、1人で弾き語りをする男がいた。冴えない曲に会場の反応がない。
私はこの異様な雰囲気を撮影しようと、入口からカメラを向けた。すると、中にいた世話役が私をみつけて引き込む。どうぞ奥へと言われても足の踏み場もない。
『今日はめでたい結婚式ですから、中に入って写真を撮って下さい。』
私は報道関係者でもカメラマンでもないですよ、デジカメを持ったただの旅行者ですよ。そう主張する間もなく、私は参列者に隙間を空けてもらいながら会場の奥へと連れていかれた。結婚式といっても会場は男ばかりで雛壇には花嫁もいない。イスラムの国では披露宴を男女別々に行なうことが多いとは聞いていたが、花嫁もいないというのはつらいではないか。
主賓席にたどりつき、つまらなそうな顔をした新郎を写す。デジカメの写真を見せるとごく周辺だけが盛り上がる。新郎の隣に座らせてもらい会場を見渡すと、食べ物が何もでていないのに気づく。男たちの前にあるのはカート(葉)と水だけ。詰め込んだカートでみんなのほっぺは十分膨らんでいるが、まだ効き目があらわれていないのかテンションが上がらない。これがいったい何時間続くのだろう。
私は早々に退散した。

つらいなあ、酒のない男だけの披露宴は。

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