[モロッコ]フェズ(1)
モロッコの大きな駅には列車運行予定を示す電光掲示板がある。特にタンジェの駅舎は新しく切符販売は迅速で、駅だけ見ると、スペインやフランスよりも進んだ国かと思ってしまう。
駅の案内所で時刻表をもらう。B4サイズの用紙1枚両面に印刷されたスケジュールがモロッコ鉄道の全てなのだろう。主な都市は1日4~8本は走っている。モロッコ国内の移動は鉄道中心で大丈夫だということがわかった。
タンジェを9時に出発、途中乗り換えで1時間待ち15時にフェズに着く。車内は東欧より清潔でイタリアなみ。
フェズのメディナは世界一複雑な路地が広範囲にわたると言われるため、2泊して1日半は歩き回ろうと思っている。そのため、今日は下見のつもりで気の向くままに歩いてみた。
確かに規模は大きそうだが、他のイスラム諸国のメディナとそれほど異なる部分はみつからない。屋根が架けられた路地が多く、人通りが多い所は蒸す。そして、時々、屎尿の強い臭いが漂う。こんな所を観光で歩くなんて余程の変わり者だ。
「コンニチワワ。コンニチワワ?」
日本語で声をかけてくる人がよくいるが、誰から教わったのか変な言葉を発する者がいる。「『こんにちは』は挨拶の言葉だ」とツッコミたくなる。
揚げ物、なつめやし、くるみなどを買い食いしても1ユーロに満たない。道を間違えれば、そっちは行き止まりだと教えてくれる。路地の両側からみつめている街の人々の目はあたたかい。メディナの路地めぐりがだんだん楽しくなってきた。
食費を押さえるため、これまで西ヨーロッパではスーパーで買ってきた素材で食事を済ませるという旅らしからぬことを行ってきた。しかし、モロッコは庶民的な店を選べば安く食事できる。新市街にとったホテル周辺の表通りでレストランを探した。ヨーロッパのカフェバーを真似た気取ったスタイルの店が多い。歩道に出されたテーブルで、客は粉塵のあがる車道を向いてコーラやジュースを飲むだけで誰も食事していない。それで地元の人たちで混雑している裏通りの暗く汚い店に入った。
トイレ紙風の固いナプキンの上に置かれたパンに休みなくハエが群がる。ハエを追い払いながら丸く平たいパンの表面をつまんでいたが、メインが来たのでパンをちぎり取ろうとして持ち上げた。するとパンの裏側に親指以上の大きさの黒い固まりが。何だろうと目を近づけると、もぞもぞ動いている。ヒエー、先に食事中の虫だ。平たいパンの表裏を虫と食べ合っていただなんて。
清潔だが物価が高い国と物価は安いが不衛生な国、旅行先としてどちらがいいのだろうか。